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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第六章/五/1 

1 精神薄弱者の犯罪

 精神的低格が犯罪の原因であるという主張は,ゴツダードの初期の研究以来,一時は,かなり広く信じられた。しかし,知能検査の改良と普及とともに,その調査結果がいつそう厳密かつ批判的に分析されるようになった。最近の調査研究によると,犯罪者の中で精神薄弱者の占める比率が漸減しつつあるという傾向が認められ,かつて強調されたほど,知能の果たす役割は重要ではないとの見解をとる人がふえている。だが,そうは言っても,生れつきの低劣な知能という要因が,全く無意義であるなどと言うことはできない。このことは,個々の事例において,依然として重要な一つの部分的役割を演じていることが確証されている。また,さきに述べた精神薄弱の三段階のうち,上限の魯鈍級のものの犯罪が,痴愚や白痴に比較して多く,また,次に述べる精神病質との合併(純粋な知能障害だけではなく,性格偏倚を伴うもの)と思われる低格者が,最も犯罪を犯しやすいことが知られている。このような精神薄弱者は,一般に,状況や行為に対する判断力が劣るばかりでなく,根強い劣等感と,その代償として現実離れした高い欲求とをもっているものが多く,したがって自己の行為の結果を考えることなく,また,どう察の不足した計画性の欠けた衝動行為を示しやすい。つまり,劣等感を補償して欲求を充足させるためには,自己の能力や周囲の状況を正当に評価することができないままに,短絡的に,または模倣的に,行動することが多く,あるいはまた,このような者は,一般に,被影響性や被暗示性が強く,他人におだてられて利用されたり,付和雷同的に行動しやすいのであって,このことは,犯罪や非行の決定要因として,かなり重要な役割を演じるものである。
 精神薄弱者の犯罪について考察すると,放火と性犯罪とがその特徴的な犯罪形態である。精神薄弱者の放火は,きわめて単純な動機(たとえば,しつ責に対するえん恨や報復,不快感情の解消や郷愁に基づく願望,幼児的ないたずらや好奇心など)による場合が多いが,その結果が,社会的に重大な損失を招くために注目されている。性犯罪や性非行の内容をみると,強かんが最も多いが,それも,未遂に終わったものがきわめて多い。また,年少の少女に対する強かんや強制わいせつのほか,性的な動機に基づく暴行,傷害,脅迫,露出症,公然自慰,窃視,拝物愛による窃盗など,倒錯傾向をもつものも少なくない。そのほか,一般の性犯罪には,共犯(輸かん)が多いのに比較して,精神薄弱者の場合には,単独犯が圧倒的に多いことも,一つの特色である。比較的重症の精神薄弱者を矯正施設に収容するに際しては,専門の医療少年院や医療刑務所があるから,それほど問題はないが,比較的軽度のものについての施設の専門化ないし分化は,必ずしも十分ではないように思われる。分類収容の徹底と適切な専門的処遇の推進が今後の課題であろう。なお,精神薄弱に精神病質の合併している者については,社会的予後が一般にきわめて不良であるから,保安処分的措置を含めた対策が考慮されるべきであろう。