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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第六章/三 

三 自傷・他害のおそれのある精神障害者と措置入院等

 精神衛生法によれば,都道府県知事は,医療および保護のために入院させなければ,その精神障害のために自身を傷つけ,または他人に害を及ぼすおそれがあると認めた精神障害者を,本人および関係者の同意が得られなくても,強制的に病院に入院させることができることとしている(同法第二九条,以下これを「措置入院」という。)。この措置人院による入院患者は,昭和三五年までは,年々千人程度の増加にすぎなかったが,三六年以後急激に増加し,すなわち,三六年には,約三万人であったものが,翌三七年六月末現在では,四〇,九九四人,三八年六月末現在では,五〇,八二六人,三九年一〇月末現在では,五八,六六二人,四〇年一〇月末現在では,六五,三七二人,そして四一年一〇月末現在では,六七,四一七人となっている。
 つぎに,精神衛生法によれば,精神障害者またはその疑いのある者を知った場合は,だれでも,その者について,精神衛生鑑定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる(第二三条)とされているし,また,警察官は,これらの者を職務執行中に発見したとき(第二四条),検察官は,これらの者について,不起訴処分を行なったとき,または,自由刑の実刑の言渡し以外の裁判が確定したとき等(第二五条),矯正施設の長は,これらの者を釈放,退院または退所させようとするとき(第二六条),保護観察所の長は,保護観察の対象者がこれらの者であることを知ったとき(第二五条の二),それぞれ都道府県知事に通報の義務を負っている。右に述べた,このような申請または通報について,最近一〇年間の統計を示すと,I-77表およびI-78表のとおりである。一般からの申請は,昭和三六年を頂点として,その後,しだいに減少の傾向を示しているが,警察・検察・矯正関係からの通報,すなわち,犯罪行為のあった者についての通報件数は,逆に,年々増加しており,昭和三六年には二,九五三件であったのが,四〇年には七,二六七件で,二・四倍になっている。ここで,当然のことながら,申請または通報の増減に比例して,精神障害者と認定された者の数が増減していることに留意すべきである。右の通報総件数の内訳としての,警察官・検察官および矯正施設の長の各通報件数をみると,前二者のそれは,年々増加の傾向にあり,昭和三一年の件数を一〇〇とした場合,四〇年の指数は,それぞれ六三九と三六九となっている。これに対して,矯正施設の長のそれは,三七年,三八年では,やや減少し,三九年以後,増加を示しており,増加率においては,一五〇という最も低い数値を示している。ひるがえって,同じI-78表により,通報された者のうち,精神障害と認定された者の数をみると,警察・検察関係においては,通報件数に比例して年々増加し,昭和三一年に比較して,四〇年では,警察官のそれは約八倍,検察官のそれは約四倍に増加している。矯正関係では,三九年を除いて,あまり増加していない。保護観察所長による通報は昭和四〇年から行なわれたので,右に述べたような傾向と比較することはできない。ちなみに,昭和四一年中に保護観察所長から通報された人員は,三五九人で,そのうち,二六六人が措置入院となっている。

I-77表 精神衛生法による申請・通報件数および精神障害者数(昭和31〜40年)

I-78表 精神衛生法による通報件数(前表C欄の内訳)(昭和31年〜40年)