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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第四章/三 

三 ひき逃げ

 交通犯罪の中で,一般に,最も悪質だといわれているものに,「ひき逃げ」がある。車両等の運転者その他の乗務員が,交通事故を起こして,人の死傷または物の損壊という結果を生じさせながら,救護措置や警察官に対する申告をしないで,逃走する行為である。道路交通法は,車両等の交通による人の死傷または物の損壊があったときは,当該車両等の運転者その他の乗務員は,直ちに車両等の運転を停止して,負傷者を救護し,道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならないとしている(道路交通法第七二条第一項前段)。したがって,人身事故の場合だけでなく,物件事故の場合をも含めて,およそ,交通事故が発生した場合には,当該車両の運転者のみならず,その他の乗務員についても,負傷者の救護等必要な措置を講ずる義務が広く課せられ,その違反行為は,ひとしく,一年以下の懲役または五万円以下の罰金に処せられることとされていたが,人身事故の際の自動車等の運転者により犯される,いわゆるひき逃げ事犯は,道義的に最も悪質であり,人命に対する危険性も高いことなどの理由により,昭和三九年六月一日の同法改正により,軽車両(自転車,荷車など)を除く車両等による交通事故で,人の死傷があった場合における運転者の犯した事犯を他の場合と区別し,これに対する法定刑を三年以下の懲役または十万円以下の罰金に引き上げて,この種事犯の防止を図ることとされた(なお,救護等の措置は講じたが,警察官への申告を怠るなどの行為には,より軽い刑が定められている。)。この法定刑の引上げの結果,人身事故を起こしてひき逃げしたとの理由で公訴を提起され,ともに,自由刑が選択された場合には,これまでは,原則として禁錮刑に処せられることとなっていたのが,改正法施行日(昭和三九年九月一日)以後の犯行に対しては,懲役刑が科せられることとなったわけで(刑法第一〇条,第四七条),ひき逃げに対する法律上の評価が,大きく変わったものといってよい。
 I-67表は,昭和三七年以降の人身事故発生に伴うひき逃げ事件の推移を示したものであるが,発生件数は,年を追って増加しているものの,人身事故自体の増加率(昭和三七年の死傷者数を一〇〇とすると,昭和四一年の指数は一六三に達する。)よりは低く,検挙率は,逐年上昇して八〇%をこえるに至り,昭和三三年ごろにかろうじて六〇%を維持していたのに比較して,格段の進歩を示している。また,ひき逃げされた事故の死傷者数は,増加しているが,人身事故事件全体の被害者数中に占める割合は,漸減しており,ひき逃げ事件の推移は,全体として,おおむね好ましい経過をたどっているといってもよいのではあるまいか。このような結果は,さきに述べた法定刑の引上げ,この種事犯に対する警察の捜査能力の向上等によってもたらされたものと考えられる。

I-67表 ひき逃げ事件累年比較(昭和37〜41年)