前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第三章/四/1 

四 累犯者,前科者等の犯罪

1 序説

 刑法上,累犯とは,懲役に処せられたのち,その執行を終わり,または,執行の免除のあった日から,五年以内にさらに罪を犯して,有期懲役に処すべきときをいうが,犯罪学では,処罰されたかどうかに関係なく,事実上犯罪を繰り返した者を,累犯者と呼んでいる。この意味での累犯者は,常習犯罪人に近いわけである。常習犯罪人とは,犯罪の習癖を有し,その習癖に基づいて犯罪を繰り返す者である。なお,ここで,前科者とは,罰金以上の刑の言渡しを受けて,その言渡しの効力の失われるまでの者をいうこととする。したがって,刑法上の意味の累犯者は,前科者の中に含まれるわけである。
 累犯者や常習犯罪人の増加は,一九世紀後半の欧州諸国において顕著な事実となり,これが一つの動機となって,実証科学としての犯罪学が成立するに至ったといわれている。累犯者ことに常習犯罪人が問題とされるのは,その改善が困難であり,社会的危険性が高いことによるのであって,これに対する有効適切な対策を考究することは,わが国の刑事政策においても重要な課題となっている。
 わが現行刑法には,累犯加重に関する一般規定はあるが,常習犯罪人に関する一般規定はなく,個々の場合に常習性を構成要件とする加重類型が設けられている。このような加重類型としては,刑法犯では,わずかに常習とばく罪しかないが,準刑法犯では,暴力行為等処罰に関する法律における常習暴行・傷害・脅迫・器物損壊の罪,常習面会強請・強談威迫の罪,盗犯等の防止及び処分に関する法律における常習特殊強窃盗の罪,常習累犯強窃盗の罪,常習強盗致傷および常習強盗強かんの罪があり,さらに特別法では,覚せい剤取締法等に常習犯を加重類型として規定している。これらの罪では,行為者の常習性のゆえに刑が加重されており,また,累犯者に対しては,刑の義務的加重がなされるが,これ以外には,現行法上,常習犯人に対する特別な対策はなされていない。
 以下,統計面から,わが国における累犯者らによる犯罪の傾向をながめてみることとする。なお,主として,常習犯罪の一部をなすものとして,暴力組織関係者による犯罪の多いことは,わが国の犯罪現象にみられる一つの大きな特色であるが,暴力組織関係者の犯罪については,前述したので,この節においては,説明を省くこととする。