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令和5年版 犯罪白書 第7編/第6章/第3節/3

3 ACEの有無による違いを踏まえた非行少年の支援・処遇の在り方

特別調査の結果、ACEの有無の違いによる分析により、ACE該当数が1項目以上の者の該当率が、少年院在院者で87.6%、保護観察処分少年で58.4%にも上ることが明らかになった。また、ACEに関する全ての項目について、少年院在院者の該当率は、保護観察処分少年の該当率よりも高く、中でも、「家庭内に、違法薬物を使用している人がいた」、「家族から、食事や洗濯、入浴など身の回りの世話をしてもらえなかった」及び「母親(義理の母親も含む)が、父親(義理の父親や母親の恋人も含む)から、暴力を受けていた」の該当率が顕著に高かった。さらに、少年院在院者について該当率の高い順に各項目を見ると、「家族から、殴る蹴るといった体の暴力を受けた」が最も高く、次いで、「親が亡くなったり離婚したりした」、「家族から、心が傷つくような言葉を言われるといった精神的な暴力を受けた」、「母親(義理の母親も含む)が、父親(義理の父親や母親の恋人も含む)から、暴力を受けていた」の順であり、親との死別・離別の経験のほか、心身に対する暴力に関連する項目の該当率が高かった。また、男女別の比較では、保護観察処分少年(男子・女子)及び少年院在院者(男子)と比べて少年院在院者(女子)の各項目の該当率が総じて高い傾向が見られた。少年院在院者は、保護観察処分少年と比べると、一般的に非行性が進んでいると考えられるところ、非行性が進んでいる者のうち、取り分け、女子少年においては、逆境体験を複数有しており、それがトラウマとなっている者が少なくないことが懸念された。

以上の傾向・特徴を踏まえると、少年院在院者等の中には、トラウマを抱える少年の存在が懸念され、そうした者に対する支援の充実強化等が必要と考えられる。以下では、トラウマを抱える少年に対する処遇の在り方について検討する。

少年院在院者の中には、自傷・自殺企図、逃走企図を繰り返すような少年も存在するところ、これらの行為は、トラウマにまつわるものを避けている状況(回避状況)に近い行動と考えることができる場合もあり、このようなトラウマを持つ少年が職員との信頼関係を築くことは容易ではないと考えられる。このように、トラウマは、矯正教育の円滑な実施を阻み得るものと考えられるところ、コラム13では、少年院におけるトラウマインフォームドケアの試みについて紹介した。

トラウマそのものに対して必要なのは矯正教育による対応ではなく、基本的には治療であると考えられる。このため、児童精神科医等の医師による診察・治療の下、矯正教育を進めることが理想的であるところ、矯正教育を担う少年院の職員(以下この項において「法務教官等」という。)がトラウマを抱えている少年院在院者に対して適切に矯正教育を実施していくためには、トラウマインフォームドケアが重要になってくる。法務教官等においてトラウマによる影響等を適切に理解し、その兆候や症状を認識した上で、トラウマを抱える少年に対応することが肝要であり、当該少年の再トラウマ化を防ぎ、適切なケアやサポートにつなげていく必要がある。

また、法務教官等の処遇をする側への配慮も必要である。トラウマを抱える少年との関わりを通じて、法務教官等が感じるストレスの大きさや、代理受傷(職員が少年の被害体験の話を聞くことで、自らが体験していなくても、少年と同様のトラウマを体験した状態となること)の懸念などが報告されている。こうした課題に対応していくには、前提として、法務教官等において、トラウマを適切に「見立てる」ことができるようになることが肝要であると考えられるところ、このためには、相応の経験と研さんの機会が必要とされるほか、児童精神科医等専門家の関与・支援等も望まれる。また、少年院では、相応の長期間にわたって、施設において毎日少年と関わることが前提とされるところ、特定の法務教官等に偏ることなく「チーム」で対応していくなど、法務教官等を適切にサポートする体制の構築等も望まれる。

加えて、トラウマを抱える少年の言動には、前記のようなトラウマにまつわるものを避けている状況(回避状況)など、一見不可解であり、対応に苦慮するような言動も少なくないところ、不適切な対応により、再トラウマ化や事態の悪化も懸念される。トラウマに関する知見を深め、トラウマを有する少年の言動の意味を適切に把握することは、当該少年を適正に処遇するに当たって、非常に重要な視点であり、このことは、法務教官等のみならず、刑事司法の各段階においてトラウマを抱える少年と接する全ての関係者に必要とされる視点であると考えられる(コラム13参照)。