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 昭和41年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/3 

3 更生緊急保護

 更生緊急保護は,犯罪者に対し,さらに罪を犯す危険を防止するため,その親族,縁故者等からの援助もしくは公共の衛生福祉その他の施設からの保護を受けることのできない場合,または,これらの援助もしくは保護のみによっては更生できないと認められる場合に,国の責任において,これに対し一時保護または継続保護を行ない,本人が進んで法律を守る善良な社会人となることを援護して,そのすみやかな更生をはかることである。

(一) 更生緊急保護の対象

更生緊急保護の対象者には,つぎの六種類がある。
イ 懲役,禁こまたは拘留につき刑の執行を終わった者
ロ 懲役,禁こまたは拘留につき刑の執行の免除を得た者
ハ 懲役または禁こにつき刑の執行猶予の言渡を受け,その裁判が確定するまでの者
ニ 懲役または禁こにつき刑の執行猶予の言渡しを受け,保護観察に付されなかった者
ホ 訴追を必要としないため公訴を提起しない処分を受けた者
ヘ 婦人補導院から退院した者および補導処分の執行を受け終わった者
 このように,その対象は広い範囲の犯罪前歴者にわたっている。しかし,労役場から釈放された者,少年院送致処分の執行を終わった者はその対象から除外されているので,これらの者もその対象に含めるよう,希望する意見がある。

(二) 更生緊急保護の実施機構

 更生緊急保護を実施する機関は,保護観察所である。その実施の基準は,本人に自助の責任があり,法律を守る善良な社会人となる意志を有し,その努力をする者である場合に限るとされ,また,本人から保護の申出を行なうことが必要とされている。
 更生緊急保護の措置を実際に行なっているところは,保護観察所と更生保護事業を営む団体である。したがって,更生緊急保護の措置の種別としては,保護観察所がみずから行なう自庁保護と更生保護事業を営む団体に委託して行なう委託保護の二つがある。保護観察所にあっては,保護課または観察課において,自庁保護および委託保護に関する業務を行ない,また,調査連絡課において,更生保護事業を営む団体の育成指導と監督等に関する業務を行なっている。委託保護は,法律のたてまえとしては,地方公共団体に委託をして行なうこともできるが,現在,地方公共団体でこの種の事業を行なっているところがないので,これに対する実際の委託は行なわれていない。しかし,地方公共団体にあっては,地域住民の福祉増進のうえからも,国の行なう更生緊急保護に協力するため,この種の保護施設を設置,経営することが望まれている。

(三) 更生保護事業を営む団体(更生保護会)

 更生保護事業を営む団体は,法務大臣の認可を必要とし,その行なう事業の種類により,連絡助成更生保護会と直接更生保護会の二つに分かれている。
 連絡助成更生保護会は,主として,直接更生保護会の連絡,助成等を行なう団体で,昭和四一年三月末現在で五七団体がある。そのうち,二二団体が財団法人,二団体が社団法人,残りの三三団体が法人格を有しない団体である。連絡助成更生保護会の多くは,保護観察所の管轄区域をそれぞれの対象地域として活動しているが,そのほかに,全国または地方更生保護委員会の管轄区域を対象地域としているものもある。しかし,経理面では,なお充実を要する団体が少なくない。
 直接更生保護会(以下更生保護会という。)は,昭和四一年三月末現在で一五六団体があるが,現在,実働中のものは一三五団体である。そのうち,一二七団体が財団法人,五団体が社団法人,残り三団体が法人格を有しない団体である。
 更生保護会の被保護者には,保護観察所より委託を受けた者と,更生保護会が本人の申出を受け,みずから任意に行なう者の別がある。また,前者には,更生緊急保護の対象者と保護観察中の救護,援護の対象者の別がある。
 更生保護会の保護施設には,男子または女子のみを収容するもの,男子,女子ともに収容するものの区別があり,また,青少年だけを扱うもの,成人だけを扱うもの,青少年,成人ともに扱うものの区別がある。その種別ごとの保護施設および収容定員数は,II-111表のとおりである。なお,保護施設の種別については,今後,さらに,被保護者に対する分類処遇を推進するため,老令者,精神薄弱者,とくに社会適応性に難点のある者等を主として収容する保護施設の設置,経営が望まれている。

II-111表 更生保護会の種類別保護施設と収容定員数(昭和41年3月31日現在)

 更生保護会は,さきに述べたとおり,地方公共団体で更生保護事業を行なっているところがなく,また,保護観察所にも継続して収容保護を行なう設備がない現在においては,犯罪前歴者の収容保護にあたる民間団体として,国の刑事政策の重要な一環を担い,犯罪の防止および国民の福祉増進のため,少なからぬ貢献をなし,その活動は,高く評価されている。
 国は,更生保護会に対し,委託保護に伴う費用にあてる委託費のほか,委託に伴う経費以外の事務費,および基準維持のため改善措置を命じた施設の補修等の費用に対する補助金を交付している。しかし,多くの更生保護会にあっては,経営難に悩まされ,とくに,職員の人件費の調達に苦慮している。このことは,被保護者に対する処遇の充実を期するうえの障害ともなりかねない状況にある。
 更生保護会の多くは,第二次大戦前の司法保護団体が,更生緊急保護法の施行に際し,引きつづき更生保護事業を営む団体としての認可を受け,今日におよんでいるもので,その保護施設のうちには,戦前に建築されたものも多く,老朽化のため,被保護者の生活安定の場所として必ずしも適当でない程度にいたっているものが少なくない。幸い,昭和三八年以降,日本自転車振興会より交付される補助金により,逐次,その整備がはかられつつあり,昭和四一年三月現在,すでに二六団体において,それにより増改築が行なわれた。しかし,法務省保護局の調査によれば,なお,全体の三分の一程度の保護施設が,ここ数年以内に改築を必要とする状態におかれている。
 更生保護会の実務にあたる幹部職員としては,主幹(実務の執行を総括する責任者),補導主任(被保護者の教養訓練,生活指導を行ない,相談等に応ずる責任者)がおかれており,とくに資格,要件が明示されていて,法務大臣の認可を得て就任することになっている。また,補導主任および補導員等,直接被保護者の処遇にあたる職員は,心理学,精神医学,社会学等に関する知識やカウンセリングの技法等を会得していることが望ましいが,この点では,なお資質の向上が今後に期待されている状況である。
 このように,現下の更生保護会は,重要な使命を有しながらも,経理運営,保護施設,職員等に関して,その充実向上に緊急を要する点が多い状況である。しかし,これが民間団体であり,国による補助等にはおのずから限界があって,その具体的解決は容易でない現状で,さらに広く各方面の協力援助が期待されている。

(四) 更生緊急保護の実施状況

(1) 実施方法

 更生緊急保護の措置のうち,保護観察所がみずから行なう措置のおもなものは,帰住のあっせん(運賃割引証の交付,旅費の支給),一時の食事給与,衣料給与,医療,就職に関する援助等で,更生保護会に対し委託される措置としては,宿泊所の供与,食事付宿泊の供与およびそれに伴う補導である。後者の措置の委託を行なうについては,あらかじめ,委託期間が定められ,それぞれ委託費が支給されている。委託費の単価については,ほとんど毎年,物価に応じて改定がなされ,適正が期されている。この委託費のたてまえとしているところは,その保護に必要とする実費を支給するというもので,委託を受けた側においては,その金額を下廻る経費で保護を行なうことは許されないものである。したがって,更生保護会においては,この趣旨のもとに,とくに食事の給与について,被保護者が健康を維持し,疾病を予防治療するに十分なカロリーのあるものを調理することに工夫と努力をはらっている。
 委託の期間については,法律により,本人が刑事上の手続等により身柄の拘束を解かれた後,六か月をこえない範囲で行なうことになっているので,その期間内で更生に必要な期間を定めて委託が行なわれている。もとより,更生緊急保護は,本人のすみやかな更生のための応急的措置をとるというもので,その実施が一定期間内に限られることは当然である。しかし,対象者によっては,保護の効果をよくあげるうえから,この六か月間では十分でない場合があり,関係者のなかには,さらに六か月ぐらい継続できる特別措置を希望する意見がある。
 なお,保護観察所においては,さきに述べたとおり,一時保護を主として実施し,継続保護は,ほとんどすべてを更生保護会に委託して実施しているが,これは,現在,保護観察所に,一時保護室を有するところはあるが,相当期間にわたり継続して,食事付宿泊等の供与のできる設備がないことにもよっている。このことについては,一面,救護,援護の措置の充実と,とくに,少年に対する生活訓練,社会内処遇等,保護観察方法の多様化とその強化をはかる方策として,その設置を希望する意見も多くなりつつある。

(2) 実施状況

 最近五年間の更生緊急保護の実施状況は,II-112表およびII-113表のとおりで,措置人員は,近年,減少の傾向を示しているが,措置人員あたりの措置件数をみると,累年増加しており,措置期間が長く密度の濃い保護が行なわれていることを示している。また,対象種別の点でみると,昭和三九年中に保護措置をとった人員は,一九,八七三人であるが,そのうち八〇%強が刑の執行終了の者,一六%強が起訴猶予の者で,両者でその大部分を占めている。保護観察所が行なった自庁保護の措置件数は,委託保護の措置件数に比して多くはないが,これは,それぞれの被保護者の円滑な社会復帰またはそのための障害の除去につき,必要とする保護措置がとられたもので,個々の被保護者にとっては不可欠の援助を受けたものである。

II-112表 更生緊急保護の新受および措置人員累年比較(昭和35〜39年)

II-113表 更生緊急保護の措置件数累年比較(昭和35〜39年)

 法務省保護局の調査によれば,昭和三九年中の仮出獄者二〇,四二三人のうち,更生保護会を帰住先とし,食事付宿泊等の保護措置を受けた者は,その四分の一以上にあたる五,一二八人である。このことからも,更生緊急保護の果している役割の大きいことが首こうされる。また,同局の調査によれば,更生保護会に委託された被保護者は,その九〇%程度が一五日以内に就職し,また,約半数の者は一か月以内に,九割以上の者が六か月以内に退会している。退会者のうち,約半数は住込就職等で自立し,四分の一程度の者が親族,縁故者のもとに帰住している状況で,残りの四分の一の半数程度が無断退会者である。なお,再犯による退会者は,全退会者の約二%にすぎない。これらの被保護者の九七%は,二度以上の累犯者であるが,このように委託保護の実施状況は,おおむねよい実績をおさめている。
 更生保護会では,保護観察所より委託された者について,その期間が終了した後,なお保護の必要があると認められた者,および更生緊急保護の措置をとることに該当しない犯罪前歴者で,本人の申出のあった者に対しても,任意の保護を行なっている。昭和三九年中に,この任意の保護を受けた者は五,八七三人である。また同年中,更生保護会における一日平均の保護実人員は二,六一八人である。