前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

令和4年版 犯罪白書 第7編/第4章/第3節/コラム06

コラム6 矯正施設における新型コロナウイルス感染症対策
矯正局特別機動警備隊の活動

矯正施設は、新型コロナウイルス感染症に対し、特有の感染リスクを有している。まず、矯正施設は、逃走防止の観点から窓や扉の開放が困難であり、限られた空間の中で作業・教育等を実施していることから、三つの密(密閉・密集・密接)の条件が重複しており、一たび施設内で感染症が発生すれば、感染が拡大するリスクが大きい。そして、同感染症感染拡大下においては、不安等により被収容者の衆情(多くの者の心)が乱れることによって、規律秩序を維持することが困難となるなどのリスクも有している。

令和3年中には、いわゆる第5波の感染拡大期に、複数の矯正施設においてクラスターが発生し、それらの一部の施設では、職員負担が増大し、極めて厳しい状況に陥った。しかし、各矯正施設は、前記のような特有の感染リスクを抱えながらも、おおむね最小限の感染にとどめ、適切な施設運営を維持した。

新型コロナウイルス感染症感染拡大下にあっても適切な施設運営を維持できた要因としては、令和2年4月27日に、矯正施設感染防止タスクフォースにおいてガイドラインを策定し、その後も、ガイドラインに基づいた同感染症の感染防止対策を講じるとともに、これまで培ってきた知識や技術を生かしつつ、感染防止対策を強固なものとしてきたことが挙げられる。

さて、前記の結果を導き出すに当たっては、各矯正施設の努力に加えて、法務省矯正局長直轄の特別機動警備隊(SeRT(サート):Special Security Readiness Team)の貢献が大きかった。そこで、特別機動警備隊及びその活動等について紹介したい。

特別機動警備隊は、平成31年4月1日に発足し、東京拘置所に常設されている。その設置目的は、矯正施設における暴動、逃走、天災事変等に対処するほか、矯正施設に対するテロリズム等の非常事態にも対処することである。4個小隊(小隊長以下12人)で編成され、隊長、副隊長及び中隊長以外の隊員の任期は3年となっている。設置目的を達成するための年間訓練項目を定め、輸送・設置・避難所運営部隊、レスキュー部隊、機動警備部隊及び銃器部隊の四つの部隊に分かれて、訓練を実施している。

新型コロナウイルス感染症対策に当たっては、医療用防護服等の取扱いのほか、ゾーニング(汚染区域と清潔区域の分類)方法に関する訓練を年間訓練項目の一つとしている。そして、同感染症の陽性者が発生した延べ40以上の矯正施設に対し、同訓練を受けた特別機動警備隊が派遣された。派遣先の矯正施設では、陽性者を収容するエリアのゾーニング設定や勤務職員の防護措置及び勤務要領作成等に関する指導を行ったほか、重症化した陽性者の医療刑務所への護送を実施した。また、管区機動警備隊集合訓練等において、感染防止対策の指導を実施し、矯正施設における同感染症の感染拡大を防止し、施設の規律を維持することに大いに貢献した。

併せて、任期を終えた隊員は、各矯正施設の職員として戻った後、特別機動警備隊入隊中に得た知識・技術を各施設における新型コロナウイルス感染症の感染防止対策に役立てている。

特別機動警備隊は、前記の活動のほか、災害復旧支援活動、暴力団幹部の出所に伴う施設警備、各種イベントにおける広報活動等も行っている。例えば、災害復旧支援活動として、台風19号(令和元年東日本台風)の通過時においては、東京拘置所での避難所開設(令和元年10月12日から翌13日まで)や、長野県須坂市における災害支援(同月17日から同月27日まで)を実施し、3年7月3日に静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害においては、静岡県熱海市長から法務省矯正局長宛てに支援を依頼したいとの要望があったことから、同月18日から約2週間、隊員19名が派遣され、現地対策本部での関係機関調整会議・作戦会議に参加し、自衛隊、消防、警察等の関係機関と情報を共有しながら、災害支援を行った。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収束した後も、将来的な感染症対策、施設の規律維持、災害対策・対応のための活動は、矯正施設にとって必要であり、今後も特別機動警備隊への期待が大きい。

特別機動警備隊による新型コロナウイルス感染症感染防止対策の指導(医療用防護服等の装着方法等)の様子【写真提供:法務省矯正局】
特別機動警備隊による新型コロナウイルス感染症感染防止対策の指導
(医療用防護服等の装着方法等)の様子
【写真提供:法務省矯正局】