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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/コラム21

コラム21 採用面接のための外出・外泊

刑事施設は,受刑者を施設内に拘禁することを本来的な使命としているが,受刑者の円滑な社会復帰を実現するためには,拘禁中においても,家族・知人や就労先等を含めた外部社会との望ましい関係を維持・発展させることが必要である。受刑者に対し,刑事施設の職員の同行なしに施設外に出て社会復帰に向けた活動をする機会を与えることは,外部社会との望ましい関係の維持・発展や,受刑者の改善更生意欲の喚起,社会生活に適応させる能力の育成に効果的であると考えられる。しかし,一方で,万一逃走事故が発生した場合には,地域社会に多大な不安を与え,刑事施設に対する社会の信頼を失うことにもつながりかねないため,受刑者を外出・外泊させるに当たっては慎重な運用が求められるところであり,刑事施設内部の審査,当該受刑者の環境調整を実施している保護観察所への求意見のほか,関係機関への事前説明・協力要請等,必要な調整を経た後に実施される。

このコラムでは,受刑者に採用面接を受けさせるために,刑務所が更生保護施設及び民間企業と協力・連携して実施した受刑者の外出・外泊事例を紹介する。

A刑務所のB受刑者は,外出・外泊中の遵守事項について,A刑務所職員から事前に説明を受けた。当日,私服に着替えたB受刑者は,A刑務所からGPS機能付きの携帯電話の貸与を受け,A刑務所職員の運転する官用車でC更生保護施設へ到着した。その後,A刑務所職員はB受刑者を残したまま帰庁し,B受刑者は,C更生保護施設に外泊したが,模範的な態度で過ごしたという。

翌日,B受刑者は,C更生保護施設において協力雇用主であるD株式会社(土木業)の採用面接を受け,面接終了後,採用内定を告知された。D株式会社によれば,出所者の採用に当たっては,罪名や犯罪の中身に関係なく,仕事に対するやる気を重視しているという。B受刑者に対する印象はとても良く,刑務所にいるのが何かの間違いではないかと思われたとのことであった。D株式会社にとって,受刑者の外出・外泊制度のメリットは,刑務所の中ではなく一般社会において,私服を着用し一般人と何ら変わらない姿の受刑者と採用面接を実施できることにあるという。

採用面接終了後,再びA刑務所に戻ったB受刑者が後日提出した感想文には,D株式会社の人事担当者と面接することにより不安が解消できたこと,仕事に対する意欲が高まったこと,C更生保護施設の職員にとても親切に対応してもらったことなどが記載されていた。

B受刑者は,仮釈放後,C更生保護施設に帰住し,D株式会社で働きながらアパートを見つけて自立するまでの2か月半にわたり,C更生保護施設から支援を受けた。C更生保護施設は,今後も刑務所から保護観察所を通じて協力依頼があれば,空室がある限り,受刑者の外泊について協力を惜しまないとのことである。

就職後,約半年を経過したB元受刑者は,これまで遅刻や無断欠勤もなく,真面目に勤務しており,近日中に作業グループの中でも責任のあるポジションに就く予定であるという。D株式会社には,他にも複数の出所者が就業しているが,いずれも違和感なく受け入れられており,職場のみならず元請会社・グループ会社の理解と信頼も得て,職務に精励しているとのことである。