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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/コラム12

コラム12 薬物依存からの回復に向けた自助グループとの連携

女性の受刑者には,覚せい剤取締法違反等の薬物事犯者が多い。女性施設である福島刑務支所では,特別改善指導の一つである薬物依存離脱指導(第2編第4章第2節3項(2)参照)に加えて,薬物依存者の自助グループであるナルコティクス・アノニマス(Narcotics Anonymous。以下「NA」という。)の協力を得て,クラブ活動の一環として,希望者の任意参加によるミーティングを月に1回実施している。NAは,薬物による問題を抱えた匿名の仲間同士の集まりであり,薬物を使用しないで生きるために,互いに助け合い,定期的に仲間と会うことを通じて,薬物依存からの回復を目指している。福島刑務支所がNAのミーティングを始めた契機は,「米国の例にならって,刑事施設内にNAを持ち込めないか。」とのNA側からの提案であった。その後,職員を交えた準備や検討を経た上で,平成27年度から「希望グループ」という名称で継続的にミーティングを実施しており,現在このグループは,NAの正式なミーティングとして,国際的な組織であるNAワールドサービスに登録されている。

希望グループのミーティングでは,「分かち合い」といって,参加者が一人ずつその回ごとのテーマに沿って自らの体験や感情について語り,他の人は語られる話を聴く。ミーティングを安全な場とするため,「個人名や固有名詞を避ける。」,「他人の話ではなく自分の体験や感情について話す。」,「言いっ放し,聞きっ放し。」といったルールを設けている。

取材当日は,NA東北エリアの3人のH&I委員会のメンバー(NAメンバーのうち一定の講習や勉強会を経て,病院や施設(Hospitals & Institutions)へ出向き,NAの説明やNAを通じた回復,またどのようにNAにつながるか等を自らの体験を踏まえて伝える役割の者をH&I委員会メンバーと呼ぶ。)と14人の受刑者がミーティングに参加し,最初の60分をテーマに沿った分かち合いに,残りの30分をNAに関する質疑応答の時間に充てていた。

前記H&I委員会メンバーによれば,こうした刑務所内でのミーティングは国内に前例がないことから,東北エリアだけではなく,日本リージョン(日本を世界の中の一地域と捉えて日本リージョンと呼ぶ。)H&I委員会のメンバーも希望グループの運営に関する話合いを重ねるようになり,我が国のNAの在り方についても考える機会になったという。

NAでは,NAに初めてつながった日を「生まれ変わりの日」とし,その日から薬物を使用しない「クリーン」の日数を節目ごとに記念してキータグ(鍵札)が渡される。希望グループでも,グループ参加をスタートとしてキータグが渡される。参加者からは,こうしたキータグの交付は断薬を続けていく上での励みになるとの声が聞かれ,実際,希望グループで交付されたキータグを携えて地域のNAミーティングに現れた元受刑者について伝え聞いたこともあるという。

福島刑務支所の担当職員は「希望グループは,NAワールドサービスに登録され,社会のNAメンバーに認知されていることに意味がある。刑事施設に収容されながらも,薬物依存からの回復を願う世界中の仲間たちとつながっていると感じることができるからで,薬物事犯者の再犯防止,薬物依存からの回復には重要であると思う。」と述べていた。

ミーティングの風景とキータグ【写真提供:福島刑務支所】
ミーティングの風景とキータグ
【写真提供:福島刑務支所】