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平成29年版 犯罪白書 はしがき

はしがき

平成8年以来,毎年戦後最多を更新した刑法犯の認知件数が14年をピークに減少に転じ,28年には戦後初めて100万件を下回り,ピーク時の約3分の1まで減少するなど,我が国の犯罪情勢は全体として大きく改善している。しかし,その一方で,凶悪事件の発生は後を絶たず,特殊詐欺や児童虐待,配偶者間暴力,ストーカー犯罪等が近年増加するとともに,身近で起こり,量的にも大きな比重を占める窃盗や覚せい剤事犯を中心に再犯の問題が顕著になっており,高齢犯罪者の問題も顕在化している。

現在,2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を見据え,「「世界一安全な日本」創造戦略」(平成25年12月閣議決定)の下で,国民が安全で安心して暮らせる国であることを実感でき,世界各国からの訪問者も共に安全に安心してオリンピック・パラリンピックの感動を共有できる「世界一安全な国,日本」を創り上げることを目指した取組が進められているが,その目標を達成するためには,問題となっている犯罪事象に適切に対応し,その発生を抑止するとともに,再犯防止対策を充実させ,再犯を減少させることが必要である。

再犯防止に向けては,既に「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月犯罪対策閣僚会議決定)の下で,対象者の特性に応じた指導・支援の強化等の重点施策に沿って,関係諸機関の連携により様々な取組が推進されており,平成28年6月,薬物事犯者等再犯リスクが高い者に対して出所後に保護観察の機会を与えることを目的の一つとする刑の一部執行猶予制度の運用が開始され,同年12月,国及び地方公共団体の再犯防止に関する責務を明らかにし,関係機関や民間団体等との連携の下に再犯防止等に関する施策を進めるべきことなどを規定した再犯の防止等の推進に関する法律が制定されるなど,法制面でも整備が図られている。再犯防止においては,同法が定めるように,犯罪や非行をした者が社会生活を営んでいく上で必要な住居,就労,福祉,保健,医療等に係る支援を確保し,あるいは犯罪等に影響のある依存症等を治療していく上で,関係機関や民間団体等との連携が極めて重要であり,各地で様々な多機関連携による試みが進められつつある。そこで,本白書では,昨年,再犯の問題を取り上げ,「再犯の現状と対策のいま」と題して,再犯の現状を定量的に分析し,少年・若年者,高齢者,女性といった対象者の特性ごとに講じられている取組を概観したのに続き,「更生を支援する地域のネットワーク」と題して,再犯防止における民間協力と多機関連携に焦点を当てた特集を組むこととした(第7編)。

本特集においては,犯罪や非行をした者の立ち直りに関する国民の意識の現状を概観・分析するとともに,地域のボランティアの活動,地方公共団体と連携した取組等の実情や,薬物事犯者,高齢・障害犯罪者等の指導・支援,就労支援等を中心に更生に向けた民間協力と多機関連携による取組の実情を紹介し,再犯防止に向けた地域のネットワークの在り方と今後の検討課題について考察した。

平成28年を中心とする最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を扱った本白書のルーティン部分が犯罪情勢の定点観測を行うための素材として,効果的な刑事政策の立案の基盤となるとともに,本特集が,再犯防止に向け,官民一体となった地域のネットワークを構築するための基礎資料として広く活用され,再犯防止対策の充実・強化に多少なりとも寄与することができれば幸いである。

終わりに,本白書の作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力を頂いたことに対し,改めて謝意を表する次第である。


平成29年11月


法務総合研究所長 佐久間達哉