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平成26年版 犯罪白書 第6編/第3章/第4節/2

2 刑事司法機関等と他の公共機関との連携

ここでは,刑事司法機関等と他の公共機関との連携として,大学及び医療機関と連携した窃盗事犯者の再犯防止の取組事例を紹介する。

なお,事例1は現在検討中のものであり,事例2は試行後間もないものであるが,両事例共に,今後,窃盗事犯者の再犯防止施策を検討する上で有用な実践例と考えられるので,その概要を紹介することとする。

事例1 四国少年院と香川大学との連携事例

香川県内にある四国少年院は,全国8番目の少年院として昭和21年に設立された,男子少年を収容する初等・中等少年院である。近年の入院者の傾向としては,非行事実のうち窃盗が全体の半分を占めている。

四国少年院では,同院職員が,学校等の教育機関に対して生徒指導力の強化に係る研修を実施しているほか,地元の香川大学との「官学交流」にも努めており,現在,香川大学と連携して窃盗に関する処遇プログラムの開発に向けた共同研究の準備を進めている。

事例2 更生保護施設 両全会による試行事例

東京都内にある両全会は,大正6年に発足した女子20人定員の更生保護施設である。同施設は,平成21年に指定更生保護施設に,25年に薬物処遇重点実施更生保護施設に,それぞれ指定されている(第2編第5章第5節2項P88参照)が,「出所受刑者の再入率を低下させるためには,薬物事犯者に加えて,最も人数の多い窃盗事犯者の処遇に,特に力を入れる必要がある。」との思いから,26年度からは,窃盗事犯の在所者を対象とした「リ・コネクト」という処遇プログラムを試行している。

同施設に保護されている窃盗事犯者には,社会とのつながりが希薄な者や,犯罪を助長するような人や考え方とのつながりが深い者が多いことから,犯罪につながらない健全な人や考え方と「結び付き直そう」との願いから,同プログラムは,「リ」(再び)・「コネクト」(つなぐ)と命名された。試行に当たっては,臨床心理学専攻の大学教員,保護司・元保護司といった外部協力者と共同で実施されている。

具体的には,原則として1週間に1回の頻度で,在所期間を通して継続的に行われ,ワークブックを使用して,前記の大学教員及び外部協力者による個別処遇の形式が採られている。その内容は,窃盗をやめられなかった理由や窃盗に至るプロセスを自己分析すること,自分に合った社会適応の方法を考えさせること,特に高齢窃盗事犯者に対しては,円滑に社会資源が活用できるように方向付けることなどの内容が盛り込まれており,これらを通して,窃盗の再犯防止に向けて,在所者が主体的に考えることを促すものとなっている。

本プログラムを受講した在所者は,「先生が真剣に自分の話を聴いてくれて,人と人とのつながりを感じた。」,「大切なことは書き留め,折に触れ,それを読み返そうと思うようになり,少しずつ実践している。」などと感想を述べている。

本プログラムは,完成されたものではなく,受講した在所者の反応や,関係者が一堂に会しての「リ・コネクト勉強会」での意見等を踏まえて,日々進化している。

「リ・コネクト勉強会」の様子【写真提供:両全会】
「リ・コネクト勉強会」の様子【写真提供:両全会】
コラム1 窃盗癖の問題性を有する保護観察対象者の処遇

窃盗事犯の保護観察対象者の中には,摂食障害(いわゆる拒食症,過食症,むちゃ食いといった食行動に関する障害)を有する者がおり,その中には,万引きを繰り返す窃盗癖(クレプトマニア)を有する者もいる。

これらの者に対する治療を行う医療施設は全国的にも限られているが,その一つとして,アルコール・薬物依存症,摂食障害及び窃盗癖等の治療を専門的に行う,特定医療法人群馬会・赤城高原ホスピタル(群馬県渋川市)がある。前橋保護観察所においては,この施設に入院又は通院している保護観察対象者の保護観察を,医療関係者と緊密に連携しつつ行っている。

当該施設における窃盗癖の治療は,一般的に2か月から6か月入院した上で行われることが勧められており,カウンセリング(個人精神療法),認知行動療法,家族療法,集団精神療法,薬物療法,自助グループの利用等を組み合わせる形で実施され,特に自助グループ活動と回復途上者からのメッセージが重視されている。例えば,窃盗癖患者が参加するミーティングは原則として毎日朝及び夕方に行われているほか,週三日はこれらに加えて昼間も開催されており,週合計で17回実施されている。また,窃盗癖患者の治療に際しては,管理的対応も重視されており,本人の同意を得た上で,私物や現金のチェックが頻繁に行われるほか,外出後には毎回購入した商品とレシートの照合,金銭の出納確認等が行われている。

当該施設に入院している保護観察対象者の保護観察は,担当の保護観察官が施設を訪問する形で行われており,本人との面接による生活状況の確認や,治療を担当する医師との面談による本人の状況の確認等を行っている。

コラム2 社会福祉法人恩賜財団済生会における取組

全国で医療・福祉事業を展開している社会福祉法人恩賜財団済生会では,平成22年度から3か年計画の「済生会生活困窮者支援なでしこプラン2010」を実施していたが,さらに,25年度から5か年計画の「第二次なでしこプラン」を継続実施している。

同会は,従来から,社会福祉法2条に規定する社会福祉事業として,生活保護を受けているなど生計困難な患者のために,無料又は低額で診療等を行う「無料低額診療事業」を行ってきた。しかし,現実には,社会・経済環境の変化等に伴い,社会保障制度の対象とならない者も多いという問題意識の下,「なでしこプラン2010」を実施することとなった。同プランにおいては,医療・福祉サービスにアクセスできない生活困窮者全般にその対象を広げて,巡回健診,予防接種,健康相談等の医療支援を行うといった,法的枠組みに含まれない事業を同会の負担で行うものであり,この対象の中に,ホームレス,在留外国人等のほか,「刑務所出所者」が盛り込まれている。

具体的には,同会傘下の医療施設が保護観察所及び更生保護施設と連携し,例えば,保護観察対象者等に対して,医療施設内で診療や健康診断を行ったり,定期的に医師や看護師等が更生保護施設に出向いて,無料の健康相談や診療事業を行ったりするほか,刑事施設収容中の受刑者に対して診療を行っている医療施設もある。

富山県済生会では,「第二次なでしこプラン」の一環として,インフルエンザの予防接種を無料で行っているほか,富山保護観察所が実施する保護観察における社会貢献活動の活動先として,済生会富山病院が協力している。また,富山県済生会は,県の委託を受けて,富山県地域生活定着支援センターを運営している。

済生会富山病院長による更生保護施設在所者への診察【写真提供:済生会富山病院】
済生会富山病院長による更生保護施設在所者への診察【写真提供:済生会富山病院】
保護観察対象者による社会貢献活動の様子【写真提供:富山保護観察所】
保護観察対象者による社会貢献活動の様子【写真提供:富山保護観察所】