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平成25年版 犯罪白書 第6編/第5章/第2節/2

2 帰住先

6-5-2-2図は,女子の出所受刑者の帰住先別構成比の推移(最近20年間)及び平成24年の女子の出所受刑者の出所事由別・帰住先別構成比を見たものである。帰住先別構成比の推移を見ると,一貫して「父・母」の比率が最も高いが,その比率は緩やかな低下傾向にあり,24年は30.6%であった。同年においては,「配偶者」(14.8%),「更生保護施設」(14.4%)が続いている。


6-5-2-2図 女子出所受刑者の帰住先別構成比の推移
6-5-2-2図 女子出所受刑者の帰住先別構成比の推移
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平成24年の女子の出所受刑者について,出所事由別に見ると,仮釈放者において比率が高いものは,「父・母」(34.7%),「更生保護施設」(18.3%),「配偶者」(15.6%)の順であり,それぞれ,満期釈放者と比べて16.0pt,15.0pt,3.2pt高い。満期釈放者においては,「その他」(29.8%)の比率が最も高い。「その他」は,出所の際に適当な帰住先を持たない者,出所の際に帰住先を明らかにしない者等が含まれており,その正確な割合は明らかではないが,女子の満期釈放者の3割近くが,家族や知人のもとや適切な施設等に帰住していないことがうかがわれる。

なお,平成24年の女子の出所受刑者のうち,出所時の年齢が65歳以上の者(312人)に限って帰住先を見ると,仮釈放者(190人)において比率が高いものは,「その他の親族」(35.8%),「配偶者」(27.9%),「更生保護施設」(13.2%)であり,満期釈放者(122人)では「その他」(32.8%),「その他の親族」(24.6%),「社会福祉施設」(13.9%)であった(法務省大臣官房司法法制部の資料による。)。

こうした実態を踏まえ,女子の社会復帰の場として重要な役割を果たしている,更生保護施設における処遇(取組)や課題の一端を紹介する。


コラム 更生保護施設における処遇(その1)

女子を対象とするA更生保護施設では,処遇の基本方針として,<1>食事を全員で共にするなどの家庭的,文化的な処遇環境の下で在所者の情操を高め,<2>日常の挨拶,清掃や炊事当番,金銭管理などの生活指導を充実させて基本的な社会常識と健全な生活習慣を習得させ,<3>住居,就労の確保を図るなどして,早期自立と社会復帰を支援している。特に,多くの民間ボランティアの参加を得て,教育,教養行事を実施するなどし,温かい人間関係の中で,人間性が回復できるよう配意している。

就労指導においては,仕事の探し方や面接の受け方などの個別指導と,パソコン教室,メイク教室,服装教室,話し方教室といった集団指導とにより,就労の基盤となる知識や技能,マナー等が相応に身につくよう支援し,さらに,公共職業安定所や協力雇用主と積極的に連携するなどしている。そもそも,在所者には,家族等の引受けが整わなかった者が多く,就労して自立することが大きな目標であり,一部の高齢者等を除き,ほとんどの在所者が就労に至っている。就労によって自立資金を蓄え,更生保護施設を退所する者が多いが,退所後も,就労を維持できるようなフォローアップが,次の課題となっている。

また,在所者には薬物事犯者が多く,その再犯防止には,薬物依存脱却のための専門的な指導が重要であることから,平成24年に,外部の専門家と連携した薬物離脱指導を開始した。この薬物離脱指導の柱は,薬物使用のきっかけとなるストレスとうまく付き合う方法を学ぶ認知行動療法をベースにした薬物依存回復プログラムであり,半年間のプログラムを中心に,3年間を基本的な受講期間とし,更生保護施設退所後も受講を継続することを原則としている。A更生保護施設は薬物依存回復訓練(第2編第5章第2節2項(2)エ参照)の委託先として保護観察所に登録され,その薬物離脱指導等は,薬物事犯者の再犯防止と自立による社会復帰を促進し得るものとして期待されている。


コラム 更生保護施設における処遇(その2)

女子を対象とするB更生保護施設では,些細なことで就労や自立の意欲を失う者や,心身の不調を訴え,情緒的に不安定になる者が多いことから,それらの問題特性に焦点を当て,心身の調和と自己統制力及び適切な自己表現力を養い,また,社会内での適切な対応力や常識的な金銭管理感覚を取得するための総合的処遇プログラムを平成16年度に開発し,適宜内容を見直しながら実施している。24年度においては,<1>集団プログラム,<2>SSTによる就労指導,<3>金銭管理指導を指導の柱として実施している。集団プログラムでは,外部専門家の協力のもと,コミュニケーションを題材としたゲーム(連想ゲームなど)や体を動かすゲームなどを通じて,共感性を養うなどしている。金銭管理指導では,家計簿と日記を兼ねた独自の記録ノートを用い,日々の生活や出納を視覚的に点検できるよう工夫し,自己管理能力の向上を図っている。

また,在所者に高齢者が増え,就労の機会が得にくいことなどを背景に,平成22年から,野菜作りに取り組んでいる。これは,近隣農家の耕作地の無償提供,ボランティアによる農業指導,都道府県就労支援事業者機構(第2編第5章第2節2項(4)参照)の助成等を得て,在所者において,除草や土作り作業,野菜の苗の植え付けや種まき,追肥,収穫作業等を行うもので,収穫物の販売代金は作業賃金として支払われる仕組みとなっている。作業手順習得や収益確保等に課題があるものの,農作業を通じて在所者に心のゆとりが育まれ,就労意欲の喚起が図られている。