前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和40年版 犯罪白書 第三編/第二章/一 

第二章 少年犯罪と二,三の背景

一 階層と少年犯罪

 ここに階層というのは,社会学の術語(いわゆる威光の尺度によって識別された一社会の各層を意味する)を使用したものである。この概念はもともと操作概念であり,階層の区別にあたり,何を指標とするかという点などについては,学者間に十分の一致をみていない。と同時に,社会生活は常に流動変化しており,的確な指標を決定するてとは実際問題としても困難である。そこで,ここでは,最も典型的ともいうべき家庭の経済的生活状態,保護者の職業および保護者の学歴の三つを指標として使用し,少年犯罪との関係を考察することとする。
 III-14表は犯罪統計書の最近五か年の統計によって,警察に検挙された刑法犯少年について,家庭の経済的生活状態の五個の階層(以下経済階層という)別にみたものであるが,極貧層および下流層が実数においても構成比率においても減少しているのに対して,中流,上流および極富層は増加の一途をたどっている。とくに,中流層の数が昭和三八年には八万人をこえ,従来最も多数であった下流層の数とほぼひとしくなったことは注目すべきである。すなわち,下流層はこの五年間おおむね八万人台の横ばい状態であるのに対して,中流層は,昭和三四年には五万人にみたず,構成比率の上でも三五・四%であったものが,昭和三八年には実数の上では一・七倍となり,構成比率では一一・八%の増加となっている。

III-14表 経済階層別少年刑法犯検挙人員(昭和34,36,38年)

 次にIII-15表によって経済階層別に罪種の構成比率をみると,財産犯の比率は明らかに下流層以下に高く,凶悪犯は極貧層にやや高い。粗暴犯は下流層,中流層,上流層を問わず,いづれも二〇%前後となっている。性犯罪は上流層に向って高い傾向がみられる。中流層にとくに高いのは「その他の刑法犯」であるが,その内容は,業務上過失致死傷が大多数をしめているものと考えられる。

III-15表 経済階層別罪種(昭和38年)

 次に,地域別との関係についてみると,昭和三八年に警察に検挙された刑法犯少年で下流層に属する者のうち三四・六%は,六大都市で検挙されている。これに対して中流層では二四・四%,上流層では二〇・五%が六大都市で検挙されており,明らかに差がある。すなわち,大都市においては依然として下流層の少年が比較的に犯罪に陥りやすいことを示している。なお,男,女別では著しい差異は認められない。
 さらに,経済階層別と少年保護事件の処分結果との関係をみるとIII-16表のとおりで,昭和三八年に全国家庭裁判所で取り扱った一般保護少年(道交保護事件を除いた一般保護事件で保護された少年をいう。以下この章において同じ)のうち,保護処分に付された者の率は低い階層の者ほど高くなっているのに対して,不開始,不処分になった者の比率は高い階層の者になるほど高くなっている。思うに,この点は個々の事案の犯情などを度外視して論ずべきでないことはもちろんであるが,少年の処分決定にあたって,その家庭の保護能力を判断する際,経済状態がある程度考慮されていることを示すもののように思われる。

III-16表 一般少年保護事件終局決定別保護者の生活程度(昭和38年)

 次に,階層の第二の指標としての保護者の職業別についてみる。III-17表に示すように,昭和三八年に全国の家庭裁判所で処理した刑法犯少年の保護者の職業のうち,最も多いものは技能工・生産工程作業者および農林業作業者でそれぞれ全体の二割強をしめている。ついで販売従事者,単純労働者などの順になっている。いわゆるホワイトカラー職種とされている専門的・技術的職業,管理的職業および事務従事者は合計しても全体の一四%弱をしめているにすぎない。しかし,これを最近数年間の推移でみると,ホワイトカラー職種は,昭和三八年にはやや停滞しているが,実数の上でも構成比率の上でも,上昇傾向をたどり,これに対して,漁業作業者,採鉱・採石作業者,運輸・通信従事者,サービス業・その他の従事者などは,低下の傾向にある。無職者の占める比率が減少していることも注意される。近時一般社会の職業構成がかなり変容しつつあると指摘されておりこのような事情が少年保護者の職業構成にも影響しているものと考えられるが,それはそれとして,ホワイトカラー層に属する保護少年の漸増傾向は,注目に値いする。

III-17表 刑法犯少年の保護者の職業推移(昭和34〜38年)

 さらに,昭和三八年の司法統計年報によって,刑法犯少年の保護者の職業と少年の罪種との関連をみると,III-18表に示すように,財産犯罪はどの職業にも多いが,構成比率の上では単純労働者,運輸・通信従事者および採鉱・採石作業者などが平均をはるかに上回っている。凶悪犯罪は,サービスその他の職業,単純労働者および無職者を保護者に持つ少年に多い。粗暴犯罪は,漁業作業者においての構成比率がとくに高いほか,管理的職業,サービスその他の職業および無職者に多い。なお,農林業作業者の構成比率が最も低いことは注意される。性犯罪は漁業作業者に最も多く,農林業作業者の構成比率がこれについでいる。過失犯罪も,農林業作業者に最も多く,ついで管理的職業従事者および販売従事者などの順に多い。

III-18表 刑法犯少年の罪種と保護者の職業(昭和38年)

 最後に,階層の第三の指標としての保護者の教育程度をIII-19表でみよう。昭和三八年の一般保護少年についていえば,保護者の八四・三%は小学校程度の学歴者である。旧制中学,新制高校およびそれ以上の学歴のある者は,一三%にすぎない。これを五年間の推移でみると,無教育者が実数でも構成比率でも減少しているのに対して,旧中・新高以上の学歴のある保護者の漸増の傾向がうかがわれる。小学校程度の学歴者は,おおむね横ばいの状態である。

III-19表 一般保護少年の保護者の教育程度(昭和34〜38年)

 次に,III-20表によって保護者の教育程度と終局決定との関連をみると,一般的な傾向として,保護者の学歴の高い少年の方がより多く不開始,不処分というような軽い処分に付されているのに対し,保護者の学歴の低い少年は,検察官送致,保護処分などに付されている割合が高くなっている。これは,前に経済状態について述べたと同様に,保護者の学歴の高さに比例してより多くの保護能力が判断されていることをある程度物語るものではあるまいか。

III-20表 一般保護少年終局決定別保護者の教育程度(昭和38年)