前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和40年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/2 

2 受刑者の処遇

(一) 受刑者処遇の基本原則

 受刑者の処遇は,単なる刑罰の執行にとどまるものでなく,その執行を通じて,改善更生が実現するようなものでなければならない。すなわち,刑務所における収容を通じて,できるかぎり,社会適応化即ち矯正を図ろうとするところにある。「改正刑法準備草案」(昭和三六年)も,「刑の適用の一般基準」として,「刑の適用においては,犯人の年齢,性格,経歴及び環境,犯罪の動機,方法,結果及び社会的影響並びに犯罪後における犯人の態度を考慮し,犯罪の抑制及び犯人の改善更生に役立つことを目的としなければならない」(草案四七条二項)と規定しているほか,「行刑上の処遇」として,「刑事施設における行刑は,法令の定めるところに従い,できるだけ受刑者の個性に応じて,その改善更生に役立つ処遇をするものとする」(草案四六条の二)と明示している。
 法務省当局は,このような目的にそって,監獄法,同施行規則の運用を図り,行刑累進処遇令,受刑者分類調査要綱,受刑者職業訓練規則などの法令を設けてきた。しかし,受刑者処遇の基本となっている監獄法は,明治四一年の制定であり,新しい刑事政策の進展にそぐわないものがあるとして,昭和二二年当時の司法省に設けられた「監獄法改正調査委員会」の答申を基礎に,改正のための検討が進められたが,監獄法の規定の多くが抽象的で弾力性に富んだ表現をもっており,かつ,具体的な事項を省令に委ねていることから時代の要請に即応できるし,また,新憲法の精神に抵触することなく運用することが可能であるため,さしあたっては特に改正の要がないものとして中断された。しかしながら,戦後,欧米諸国およびわが国における行刑思潮の進展と,日本国憲法の精神にてらして,現行監獄法令を被収容者の人権の擁護及び教化の徹底という二大観点から,現行刑法,刑事訴訟法の枠内で全面的に改正すべきではないかとの発想のもとに,昭和二八年から矯正局においてあらためて改正準備に着手し,その後も改正のための検討が進められてきたが,昭和三九年いちおうの審議を終了したので,それに基づく改正準備草案が近く作成されることになろう。

(二) 入所時の処遇

 新たに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,刑の言渡し,もしくは拘禁生活からくる精神的不安定を解消し,刑務所における処遇の目的と実際とを理解させ,できうるかぎり,受刑生活を有意義に送らせるためのオリエンテーション・プログラム(入所時教育訓練)と矯正の目的を達成するために,個々の受刑者について,最も適切な取扱いおよび訓練の方針を確立するための分類調査と収容施設の選定とが行なわれる。
 入所時教育訓練は,入所後おおむね一五日以内に入所時分類調査と平行して行なわれている。その教育訓練の目的と内容,受刑の意義,矯正および更正保護の目的と機能,刑務所の機構と処遇の概要,所内規則と日常生活上の心得などについて指導がなされる。またその実施にあたっては,単に形式的に,収容生活に必要な知識を教えこんだり,入所時の心身の不安をとり除いたりするだけでなく,このプログラムを通じて,受刑者みずからが,改善しようとする機会を得るように方向づけるための,最善の努力がなされている。しかしながら,入所時教育訓練を徹底し,分類調査を十分に行ない,矯正に役だてるためには,一五日という期間は余りにも短かすぎる。そこで当局では,昭和三年以来検討をすすめてきた結果,同三二年に東京管内にある中野刑務所に分類センターを設け,同管内の一定範囲内の新入男子受刑者(昭和三八年は,二,五六三人)を,六〇日間収容し,まず第一次判定期間を一五日間とし,訓練観察期間を三五日間,総合判定期間を一〇日間として,新入受刑者の分類調査と入所時教育訓練の徹底を図った。(なお中野刑務所分類センターにおいて,どのよらな手続で,分類調査とオリエンテーションの徹底がはかられているかについては,昭和三九年版,犯罪白書一七〇頁以下参照)。その結果が,良好であることにかんがみて,昭和三八年以来,同センターに準ずる分類センターを,八王子,大阪,名古屋,広島,福岡,宮城,札幌,高松の各刑務所に設けるべく,合計三一名の専門職員をそれぞれ配置し終ったところである。

(三) 分類処遇

 分類調査は,個々の受刑者について,それぞれのもつ問題と資質との関係を明らかにし,最も有効適切な処遇計画を立てることを目的とした一連の手続であり,これには,次のような調査が含まれる。すなわち,最初に医学,精神医学,心理学,社会学,教育学などの知識を,できるだけ活用して,精確な診断を行ない(鑑別),次には,そのものに最も適した処遇施設を指定し(施設分類),それぞれの施設内で処遇を配分し(細分類),処遇にもとづいて当初の処遇方針を検討し(再分類)最後に,社会生活への橋渡し(釈放前教育分類)がなされる。
 用いられる資料としては,犯罪の内容と経過,生活史(家族歴,生育歴,病歴,非行・犯罪歴,職歴,交友歴など),心身の特質(知能,性格,学力,適性,健康,趣味,娯楽など),家庭状況,近隣関係および所属集団に関する資料,本人の日常を監督する任にある職員が,本人を観察して知りえた資料,また少年院,刑務所などの収容施設の経験のあるものについては,とくに,その記録等が用意される。
 このような鑑別の結果を生かすためには,徹底した個別処遇を行なう必要があるが,現実には,個別処遇を効率的に実現し,必要な設備を集約的に整備するため,まず同質の受刑者を一つのグループにまとめ,それぞれ一つの施設に分けて収容する形をとっている。このようなグループを分類級と呼んでいるが,入所時分類調査の目的の一つは,このような分類級の決定にあるといってよい。
 現在とられている分類級は,国籍別,性別,年齢別(成人と少年の別),刑期別(長期,短期の別),心身の障害の有無による区別のほか,全般を通じて「所定の刑期を通じての矯正の可能性の見通し」によって,次の一一級となっている。このなかには,地域の特殊性,該当人員,施設の整備,移送等の問題があって,一部の地域においてのみ実施されているものもあるが,いずれも必要な分類であって,全国的に実施されることを要請されているものである。
A 性格がおおむね正常で,改善容易と思われるもの
B 性格がおおむね準正常で改善の比較的困難と思われるもの
G A級のうち,おおむね二五才未満のもの
E G級のうち,おおむね二三才未満で,とくに少年に準じて処遇する必要のあるもの
 以下の各級も,それぞれA(GまたはE)あるいはBに細分類する。
C 刑期の長いもの(おおむね実刑七年以上,ただし,東京管内一〇年以上,福岡,仙台管内八年以上,札幌管内五年以上)
D 少年法の適用をうけるもの
H 精神病(Hz),精神病質(Hy),精神薄弱(Hx)などで,医療の対象となるもの
K 身体の疾患(Kx),身体の故障(Ky),または老衰,虚弱(Kz)などにより,療養または養護を要するもの
J 女子
M 外国人
N 禁錮
 現在の分類級別施設数は,II-51表のとおりであり,これに収容されている受刑者分類級別人員と率は,昭和三九年一二月二五日現在,II-52表に示すように,総数五〇,七五九人のうち,B級受刑者が二六,〇二一人(五一・三%)と過半数を占め,次に多いのがA級受刑者の八,三五〇人(一六・五%),以下G級受刑者六,二七九人(一二・四%),C級受刑者三,八二二人(七・五%),H級受刑者一,五三七人(三・〇%)の順になっている。

II-51表 分類級別刑務所数(昭和40年1月1日現在)

II-52表 受刑者分類級別人員と率(昭和39年12月25日現在)

 分類制度は,その分類級によって,それぞれ適切な内容の処遇を施すことを目的としている。たとえば,改善容易なものを収容しているA級やG級の刑務所では,職業訓練を中心とした処遇体系が取られ,医療刑務所では,医療的な処遇が行なわれている。また最近,業務上過失致死傷による禁錮刑受刑者の増加にかんがみ,東京管内では習志野作業場,大阪管内では加古川刑務所,名古屋管内では豊橋刑務支所,広島および福岡管内では佐賀刑務所,仙台管内では山形刑務所に,それぞれN級受刑者を分隔収容し,法規および人命を尊重する態度のかん養をねらった生活指導と厳格な生活訓練に重点をおく処遇を施して効果をあげている。

(四) 累進処遇

 累進処遇制度は,第一次大戦から第二次大戦の間,世界的に広く採用され,わが国においても,昭和九年に定められた行刑累進処遇令によって実施されつつあるものである。その趣旨とするところは,責任の加重と処遇の緩和とを通じて,受刑者の自発的な改善への努力を促進し,その程度に応じて,最下級(四級)から最上級(一級)へと,段階的に累進させ,併せて,それに伴って処遇の緩和をもはかろうとするものであり,最上級者に対しては,各種の自由を与え,自治を許すばかりでなく,仮釈放を許可する方針を取っている。階級による処遇差の若干を例示すると,たとえば,この制度の適用を受ける受刑者(昭和三八年一二月末日現在,懲役受刑者五三,二七五人についての調査によると,その九一・六%にあたる四八,八三八人)は,原則として雑居制がとられ,第二級以上のものでないと,夜間独居が許されない。居室の施錠,捜検,検身が免除され,いわゆる無戒護で就業できるのは,第一級にかぎられる。転業が許可になるのは第二級になってからであり,自己のためにする労作が許されるのも第二級からである。自己用途物品の許可範囲も,階級によって差が設けられている。接見,通信の範囲も,第三級以上になってから,親族でないものに対して許されるようになる。
 しかし,第二次大戦後における社会思潮や法律制度の変革,矯正理論の発展等に伴って被拘禁者処遇の最低基準に関する一般的な考え方が変り,階級間の処遇差を縮少または廃止せざるをえない状況になりつつある。更にまた,分類制度の発達は,かかる処遇差の問題に,別の観点から検討することを要請している。すなわち,累進処遇制度が,刑期の経過に伴う本人の発奮努力の程度に応じて,四つの階級を順次進ませる方向をとっているのに対し,分類制度は,純粋に,矯正教育ないし治療の観点に立って,処遇の個別化を図ろうとするものであり,したがって,単なる形式的な平等処遇をこえて,必要な処遇差を認めようとする。今後,累進処遇制度について考えるとすれば,このような分類のうえに立って,なお,検討の余地があるか否かの問題として考えるべきではなかろうかと思う。
 なお,昭和三八年に釈放されたもの三六,三九七人について,釈放時の累進処遇段階別人員をみると,II-53表のとおりで,仮釈放と階級とは,あまり関係がなく,矯正の効果と処遇の緩和とを平行させ,社会復帰を有効に実現しようとした当初のねらいは失なわれており,この意味からも,再検討を迫られているといえよう。

II-53表 出所受刑者の累進処遇階級別人員(昭和38年)

(五) 教育活動

 受刑者の教育は,入所時および出所時教育,教科教育,通信教育,生活指導,宗教教かい,篤志面接委員による助言指導,職業訓練,体育およびレクリエーション指導などである。しかし,わが国の受刑者は,殆ど懲役受刑者で占められ,彼等には,法律によって,作業の賦課が義務づけられているため,その処遇の中心が作業におかれ,上記の教育活動も,原則として,作業の時間外に行なわざるをえず,所期の成果をあげえないうらみが少なくない。
 II-54表によって,昭和三八年の新受刑者三四,六〇三人の学歴をみると,不就学のものが五二六人(一・五%)であり,これに小学校未修了者一,五八五人(四・六%),小学校のみの修了者四,八三六人(一四・〇%)および中学校中途退学のもの二,四八六人(七・二%)を加えると,九,四三三人(二七・三%)のものが,義務教育を修了していないことになる。ここで注目すべき点は,昭和三四年における義務教育未修了者四〇・三%に比べると,その割合が大幅に減少しているということである。しかし,なお,新受刑者の四分の一以上のものが,未修了者であり,修了者の中にも形式的な修了者が少なくないと考えられるので,受刑者の少なくとも半数に対しては,基礎的な教科教育を施すことが必要である。

II-54表 新受刑者の犯時学歴別人員と率(昭和34,38年)

 通信教育の制度は,昭和二八年から全国的に採用され,昭和三五年からは,大学課程の受講も許されるようになった。
 昭和三八年度に通信教育受講の決定した成人受刑者の数は,II-55表のとおり,公費生一,一六六人,私費生九一二人である。受講者の数は逐年増加の傾向にあり,昭和三八年も,前年に比べ,二〇三人の増である。なお,公費生とは,受講料を国費でまかなうものをいう。

II-55表 受刑者中の通信教育受講決定者調べ(昭和37,38年)

 受刑者に対して更生への精神的支柱を与えるには,まず宗教教育を通じて行なうことが,適切であると考えられ,戦前には,国家の職員であった教かい師によって,全受刑者に対して,宗教教かいが行なわれてきた。しかし,戦後,日本国憲法のもとにおいては,国家および国家機関による宗教教育が,全面的に禁止されたため,その後に,すべて民間の宗教家により,受刑者のうち,希望者に対してのみ行なわれることになった。なお,新受刑者の宗教に対する関心についてみると,II-56表のとおり,最近五年間に,無信仰者の割合が急激に増加しており,(昭和三四年に無信仰者は三一・九%だったが,同三八年には五四・四%となった。)信仰をもっているものについては,いわゆる既成宗教のものが,五六・三%(昭和三四年)から三五・五%(昭和三八年)へと大幅に減少していることが注目される。

II-56表 新受刑者の信教別人員と率(昭和34〜38年)

 次に,篤志面接委員制度は,昭和二八年に発足したもので,被収容者の種々の個人的な悩み,家庭問題や将来の生活設計など,矯正施設の職員には相談しにくい問題について,民間の学識経験者の助言指導を求めて,その解決を図ろうとするものである。
 現在,一,〇一九人の篤志面接委員が委嘱されているが,担当部門別人員と面接内容別実施回数は,II-57表(1)(2)のとおりである。

II-57表

(六) 刑務作業および職業訓練

 刑務作業は,刑務所において被収容者の労務によって営なまれる作業をいう。刑法上定役に服すべき懲役受刑者の作業がその主なものである。次に,これに準じて施行される労役場留置者の強制作業があるほか,法律上作業を強制されない,禁錮受刑者,拘留受刑者,死刑確定者及び未決拘禁者の請願による作業がある。いわゆる「自己労作」は,被収容者が自己の収支によって行なうもので,ここでいう刑務作業ではない。昭和三九年一二月末現在における刑務作業の就業状況はII-58表に示すように,懲役受刑者は八九・五%,禁錮受刑者は九一・九%,労役場留置者は七八・四%が,それぞれ刑務作業に就業している。懲役受刑者のうち不就業者がいるのは,分類調査,疾病,懲罰の執行,移送などの事由によるものでるる。

II-58表 刑務作業の就業人員と就業率(昭和39年12月末日現在)

 刑務作業の狙いとするところは,(イ)就業人員の大部分を占める懲役受刑者の刑の内容である定役の執行,つまり,作業の確保と,就業の強制にあると同時に,(ロ)それを通じて,受刑者に正しい勤労を習慣づけ,職業的な訓練を与え,必要な技能を身につけさせることによって,受刑者の社会的復帰を可能にしようとするものである。また,(ハ)国家経済の上から国民の負担を軽減するため,組織された一種の企業として,高い収益をあげることでもあると考えられる。かように,今日の刑務作業は,これら三つの目的を同時に達しようとして,生産的・有用的な作業の充実を目ざしている。

(1) 刑務作業の業態,業種

 刑務作業の業態は,次の五種に分けることができる。
(イ) 物品製作 作業の実施に必要な費用,物品等のすべてを国が負担して行なう作業(ロ) 加工修繕 作業の実施に必要な費用は,国と契約者の双方が負担し,機械器具は,国と契約者とのいずれかが負担し,材料その他の物品は,契約者が大部分を提供し,国は補足的に一部分を負担して行なう作業(ハ) 労務提供 作業の実施に必要ないっさいの費用,物品等を,すべて契約者が負担して行なう作業(ニ) 経理 炊事,清掃,看護など刑務所の自営に必要な用務を行なう作業(ホ) 営繕 刑務所自体のために行なう直営工事,あるいは補修工事などに必要な用務を行なう作業
 これらの作業のうち,経理営繕を除いたものの昭和三八年における年間就業人員は,II-59表に示すように,延べ一一,六九四,八五六人で,前年に比べ,一九八,二七六人の減である。その内訳は,労務提供が最も多く(五二・六%),以下,物品製作(二四・二%),加工修繕(二三・二%)となっている。物品製作の就業人員の割合は前年に引続いて,わずかながら増加している。

II-59表 刑務作業支出額,収入額,調定額および業熊別生産額ならびに就業延べ人員(昭和37,38年)

 次に,業種別就業人員をみると,最も多いのは紙細工(封筒紙器などの製作)で,就業総人員の一七・九%,を占め,以下,金属の一六・五%,洋裁の一一・一%,木工の一〇・一%,印刷の一〇・一%などが多い。
 昭和三八年における年間生産額は,II-59表にあるように四二億八千万円に達し,前年より約三億四千万円の増加である。業態別では,就業人員の比較的少ない物品製作が二四億二千万円で,全体の五六・六%を占め,次いで,労務提供の一〇億九千万円(二五・六%)加工修繕の七億六千万円(一七・八%)となっている。
 業種別に,年間生産額をみると,木工の一〇億円(前年より〇・八億円増)が最も多く,金属の七・四億円(前年より一億円増),印刷の六億円(前年より〇・六億円増),洋裁の三・六億円(前年より〇・四億円増),革工の三・二億円(前年より〇・二億円増)などが多い。

(2) 刑務作業による収入

 昭和三八年における作業収入は,II-59表に示すとおり総額約三九億八千万円(前年より約三億四千万円の増)で,受刑者の直接収容に要する費用(刑務所収容費)の総額約三〇億四千万円を九億四千万円だけ上回っている。
 刑務作業の年間就業延べ人員が,減少しているにもかかわらず,前述のように,収入額が増加していることは,一般社会の労働力の不足を反映して,刑務所の労働力が積極的に利用されたこと,および,労務提供作業に対して,契約賃金の上昇が続いていることなどによるものである。

(3) 構外作業

 受刑者に社会適応性を与える方法の一つとして,通役(外部の作業場へ毎日通うこと)あるいは,泊まり込みによる開放的ないしは半開放的な構外作業場が設けられている。作業の内容は,森林開発,電源開発,治山治水工事などで,ほとんど公共事業的な性格のものにかぎられている。昭和三八年における就業延べ人員は,三四七,六九二人(前年より一〇一,三五三人減),年間作業収入は,約一億五千万円(前年より約二千万円の減)である。

(4) 職業訓練

 受刑者に技能を習得させるため,職業訓練を実施している。II-60表に示すとおり,木工,製靴,活版印刷,自動車運転など三〇余種目について,昭和三八年には一,八三九人,昭和三九年には一,七二二人が,訓練を終了した。

II-60表 職業訓練種目別人員(昭和38,39年)

 これらの訓練を終了したものには,技能検定への道も開かれており,昭和三八年には自動車整備士,理容師,美容師,ボイラー技士などの資格試験を受けた者は二,三一二人おり,このうち資格取得者は一,五八四人であった。また,昭和三九年には三,〇三一人が資格試験を受け,そのうち一,九八三人が資格を取得している。

(5) 作業賞与金

 刑務作業に従事したものに対しては,作業賞与金が支払われる。これは,作業の種類,就業条件,作業成績,行状などを考慮して一定の基準のもとに計算し,釈放の時に支払う恩恵的なものとなっている。平均ひとり一日の賞与金は,昭和三四年は七円六九銭,三五年は九円一八銭,三六年は一〇円四六銭,三七年は一三円三〇銭,そして三八年は一六円九四銭と年毎に増額されてきた。昭和三九年度では,平均ひとり一日あたり一九円三八銭(予算)が認められている。

(七) 給食

 刑務所における主食は,原則として,米四,麦六の割合で,性別,年齢,従事する作業の強度などによって,一等食(一日三,〇〇〇カロリー),二等食(二,七〇〇カロリー),三等食(二,四〇〇カロリー),四等食(二,〇〇〇カロリー),および五等食(一,八〇〇カロリー)の五等級にわけられて,給与される。副食については,昭和三九年度は,成人受刑者ひとり一日あたり予算額二七円九〇銭で(少年受刑者については三一円九〇銭),前年度より二円(少年受刑者については二円三〇銭)の増額であるが,陸上自衛隊の八〇円二〇銭は,もちろんのこと,生活保護(成人)の六七円に比べても,はるかに低いため,必要な栄養の補給に,苦しい努力が払われている。そのほか,結核患者には特別の副食費,結核以外の患者や妊婦には,医師の意見にもとづいて,特別の栄養食品,延長作業や特殊の構外作業に従事したものには加給食,外国人には特別の外国人給食が考慮されている。

(八) 医療,衛生

 昭和三八年中におけるり病者(医療を受けて,二日以上休養したもの,または休養しないが,医療を受けて三日以上,治ゆするに至らなかったもの)の数は,II-61表のとおり,四八,四四六人で,その内訳は,前年から繰越したもの五,一六三人(全体の一〇・七%)および本年新たにり病したもの四三,二八三人(八九・三%)となっている。最近五年間のり病率(入所後発病者の数を,一日平均収容人員で除した数×一〇〇)は,昭和三四年の五一・九,三五年の五三・九,三六年の五一・六,三七年の六二・四に対し,昭和三八年は五六・六である。

II-61表 り病者の発病区分および転帰事由(昭和34〜38)

 次に,昭和三八年のり病者を,主要な傷病別にみると,消化器系の疾患は,り病者中の二九・六%で最も多く,次いで,神経系および感覚器の疾患一一・九%,伝染病(このうちの七三・八%は結核病,一四・五%は梅毒などの性病である)一〇・〇%,呼吸器系の疾患九・〇%,循環器系の疾患八・七%,不慮の事故八・六%,皮膚および疎性結合組織の疾患六・八%,精神病,精神神経症および人格異常四・八%の順となっている。
 なお,昭和三八年のり病者を,転帰事由別に,百分比によって示すと,治ゆ七四・九%,死亡〇・二%,未治出所一三・一%および後遺(昭和三八年一二月三一日現在において,未治ゆのものをいう)一一・八%となっている。
 刑務所における衛生管理上,もっとも注意を要するのは,伝染病の発生である。このため,全国四四か所に防疫センターを設け,地区所在地施設の防疫の中心となり,検便,消化器伝染病病源体の培養検出,水質検査,その他防疫業務の指導と援助につとめている。昭和三九年における伝染病患者は,疑似,真性をあわせて,赤痢四八一人,腸チフス二人であった。
 なお,昭和三八年一二月一日現在,刑務所の医療,衛生業務に従事している職員定員は,医師二二〇人,薬剤師三一人,栄養士一三人,レントゲン技師九人,衛生検査技師八人および看護婦(人)七八人である。