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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第二章/五 

五 売春犯罪

 売春防止法違反事件検挙人員の推移については,すでに第一章において,それが順次減少傾向にあるのをみた。この節では,同法違反事件を条文別に検討することにする。
 売春事犯は,勧誘等売春婦自身による事犯(第五条)と,その他の売春助長事犯(売春の周旋,場所提供など)とに大別できる。法は,前者に対しては刑罰のみならず,補導処分という更生保護のための一種の保安処分を規定している。後述するように,統計上,五条違反の被疑者については,他の売春助長事犯の被疑者に比して,検察官の起訴率が低くなっているのであるが,これは,売春婦自体は,若干の例外はあっても,むしろ救済の対象として把握しようとする法の精神に対応するものと考えられる。
 さて,I-53表は,売春防止法違反事件の受理人員を条文別に示したものであるが,まず五条違反は,法施行以来つねに違反数の大半を占め,例年総受理人員の七〇%前後に及んでいるが,逐年減少していることが明らかであり,昭和三四年を一〇〇とする指数で示すと,昭和三九年は五五となっている。

I-53表 売春防止法違反事件罪名別受理人員の推移(昭和34〜39年)

 次に,売春助長事犯であるが,六条違反は逐年減少傾向にあったものが昨三九年に増加しているのが目をひき,この傾向は,一一条違反の場所提供罪とおおむね軌を一にしている。
 売春助長犯のなかで最も悪質なのは,婦女を自己の管理下におきこれに売春をさせることを業とする一二条違反であるが,このいわゆる管理売春の受理人員が昭和三七年以来増加傾向を示し,昨三九年にはそれ以前で最も多かった昭和三四年の数字を上回り,同年を一〇〇とすると一〇七という指数を示すにいたっているのが注目される。
 なお,これらの売春事犯を地域的にみると,売春防止法施行以来大都市に集中しており,東京,横浜,大阪,京都,神戸,福岡,札幌の八地検管内において,例年全受理人員の約八二%ないし九〇%が受理されている。
 次に,昭和三九年中の処理状況についてみると,I-54表のとおりである。すなわち,売春婦自身による勧誘等の事犯の起訴率は五六・一%となっているが,その他の売春助長事犯の起訴率は高く,とくにポン引等による第六条違反の起訴率は八七・五%という高率となっている。

I-54表 売春防止法違反事件処理状況(昭和39年)

 次に,この起訴率の推移についてみると,I-55表のとおりであり,一般に年々起訴率が高くなっている。特に五条違反の起訴率が漸次高くなっているのが目立つが,これは,五条違反の売春婦に常習累犯者的なものが増加しりつつあるという事実(昭和三九年の東京地検の調査では,五条違反の売春婦のうち六八・四%が売春の検挙歴をもっていたと報告されている。)を反映しているものと思料される。

I-55表 売春防止法違反罪名別起訴率の推移(昭和34〜39年)

 次に,通常第一審の裁判結果についてみよう。昭和三九年中に第一審公判において終局裁判の言渡しがあったのは,二,五七九人であり,うち有罪人員は二,五六八人である。そして有罪人員中二,三七八人が懲役刑を言い渡されており,そのうち実刑に処せられた者は五九二人であった。主な罪種について,その裁判結果をみると,I-56表のとおりである。すなわち,公判請求をして罰金刑が言い渡されたものは,五条違反の売春婦では九・五%,またポン引などの六条違反では九・四%であるが,場所提供では七・七%,売春業では三・八%と少なくなっている。また売春婦で補導処分になった者は二七三人であるがこれは,懲役刑を言い渡された者のうちの二六・三%にあたる。なお懲役刑を言い渡されたもののうち執行猶予となったものの比率をみると,場所提供が九〇・一%,売春業が八三%,売春婦の勧誘等が七八%,周旋等が五六・六%となっている。六条違反の周旋等で執行猶予になる率が低いのは,いわゆるポン引等同条違反の者には暴力団関係者など悪質な者が多いためと考えられる。

I-56表 売春防止法違反通常第一審裁判結果(昭和39年)