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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第二章/二/2 

2 交通犯罪の処理状況

 まず,業務上過失致死傷および重過失致死傷について,検察庁の処理状況をみると,I-41表およびI-42表のとおりである(なお統計上,自動車交通に関するものと,それ以外のものとを区別することができないため,I-41表42表は,あらゆる形態の業務上過失致死傷および重過失致死傷に関するものであるが,そのほとんど全部は自動車交通に関するものであるから,この数からほぼ正確な状況をは握することができる)。この表によると,業務上過失致死傷の起訴総数は逐年増加し,昭和三九年には一六四,一八七人に達し,昭和三四年の起訴総数の約二・三倍となっている。昭和三九年の起訴の内訳をみると,公判請求が六,〇一六人,略式命令請求が一五八,一七一人であるが,これを昭和三四年とくらべると,公判請求は約四倍,略式命令請求は約二・四倍で,公判請求の増加のいちじるしいことが目だっている。これに対し,重過失致死傷の起訴総数は例年三千人をやや上回る程度で,ほぼ横ばいの傾向にあるが,起訴のうち,公判請求の占める割合が,年とともに上昇の傾向にあり,昭和三八年において一一・〇%を占め,業務上過失致死傷の公判請求率にくらべて,いちじるしく高いことが注目される。次に,起訴率は最近六年間を通じ,業務上過失致死傷が約七二%ないし約八〇%,重過失致死傷が約九〇%ないし約九四%で,同期間における刑法犯の起訴率が約五〇%ないし約六〇%であるのとくらべ,例年いちじるしく高率である。

I-41表 業務上過失致死傷の検察庁処理人員と率(昭和34〜39年)

I-42表 重過失致死傷の検察庁処理人員と率(昭和34〜38年)

 次に,検察庁における道交違反の処理状況をみると,I-43表のとおりである。この表によると,起訴総数は年とともに大幅に増加し,昭和三九年には三,七三八,九〇八人という膨大な数に達し,昭和三四年の起訴総数の約二・五倍となっている。そして起訴率は,昭和三四年から昭和三六年までの間は,やや低下の傾向にあったが,昭和三七年以降上昇の傾向に転じ,昭和三九年にはじつに八九・六%という高率を示すにいたっている。この起訴の内訳を昭和三九年についてみると,略式命令請求が圧倒的に多く,起訴総数の九四・九%を占め,即決裁判請求が五・〇%,公判請求が〇・〇八%となっている。公判請求の占める割合が,ごくわずかづつではあるが増加の傾向にあるのが注目されよう。

I-43表 道路交通取締法令違反の検察庁処理人員と率(昭和34〜39年)

 右に述べたような道交違反事件の急激な増加に対処し,さらにこの種事件の処理の簡易迅速化をはかるため採用されたのが,交通切符制度である。同制度は既存の即決裁判手続およびいわゆる在庁略式手続を実質的に変更するものではなく,これまで警察,検察庁,裁判所で別々に作成していた事件処理に必要な書類等を一つの書式に統合し,これを三者が共用することによって,警察,検察庁および裁判所の各段階を通じ,事件処理の統一的能率化をはかること,取締り機関の違反検挙とその処理能力をあげて人身事故の未然防止をはかること,および違反者が常に迅速な裁判が受けられるようにすること等を主眼としたものである。この制度は,昭和三八年一月一日から東京,大阪,名古屋等の一〇都市で,成人の事件についてだけ実施されたのを皮切りとして,その後逐次実施地域が拡大されるとともに,少年事件についても一部実施されるようになった。昭和四〇年一月一日現在における実施地域は,全国五七〇の区検察庁管轄地域のうち,成人事件が四四六地域,少年事件が一一〇地域で,成人事件については全国の受理人員総数の約九六%を処理するものと推計されている。交通切符制度は,今日までの実績にかんがみると,事件処理の能率化,迅速化および違反者に便宜をもたらした点において,みるべきものがあり,今や全国的実施を目途として計画が進められている段階にある。なお,この制度に関連して,道路交通法違反事件のうち,比較的軽微な違反行為については,一部に,これを刑罰の対象から除くべきであるという考え方などの改正意見を生じているが,問題は刑事裁判制度の根本にふれるものがあるので,慎重な検討を要するところである。