前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

平成24年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/1

第1節 就労・住居確保等の生活基盤の確立に向けた支援の現状と展望
1 就労・住居確保等の重要性

入所度数の多い入所受刑者ほど無職率が高く(4-6-3-6図参照),保護観察期間中の再非行による保護処分の取消しで保護観察が終了した者の割合は,無職の保護観察処分少年・少年院仮退院者の方が有職の者より圧倒的に高い(3-2-5-8図参照)。また,出所受刑者全体の中で,帰住先不明等の満期釈放者は,4分の1程度であるのに対し,再犯期間が3月未満の再入受刑者のうち,前刑出所時に帰住先不明等の満期釈放であった者は,過半数を占め,出所後短期間で再犯に至りやすい傾向がある(7-2-2-1図参照)。これらのことから,仕事や帰住先のない者が再犯に陥りやすいことがうかがわれるところであり,再犯防止と円滑な社会復帰にとって,就労や住居等の安定を図ることは重要である。

今回実施した受刑者・在院者調査では,出所・出院後の住居や就労に問題や不安を感じている者は,入所・入院前に,それぞれ,住居不定であった者や無職の者に多かったり,出所後の帰住先が不安定な傾向が認められた(7-3-2-3-5図及び7-3-2-3-9図参照)。加えて,入所度数が多い受刑者ほど,家族・親族による引受けが少ないことが明らかになり(7-3-2-2-6図参照),住居や就労上の問題が服役等することによって更に悪化し,それが解決しないままリスクを負った状態で出所・出院に至るといった悪循環に陥る場合が少なくないことがうかがわれる。また,住居の問題と就労の問題は相互に密接に関連する。特に,家族や親族等,身近にいて長期的に支えてくれる者がなく,出所・出院後に速やかな自立が必要な者は,就労がなければ収入は見込めず,住居確保に困難を来し,逆に,住居が確保できなければ,就職活動に困難を来す。両者の密接な関係は,今回実施した受刑者調査からも読み取れる。

このことは従来から経験的に広く知られており,就労と住居確保等の支援の必要性自体は,目新しいものではないが,少子高齢化の進行や家族構成の変化等を背景として,再犯防止における就労や住居確保等の重要性が,近年の犯罪白書等による実証的研究によって,より明確にされ,刑務所出所者等の社会復帰支援に取り組む関係機関や支援者の間での共通認識となった。犯罪対策閣僚会議やその下の再犯防止対策ワーキングチームによる「刑務所出所者等の再犯防止に向けた当面の取組」においても,これらは,重要な柱とされ,さらに,「再犯防止に向けた総合対策」でも,「社会における「居場所」と「出番」を作る」ことの具体的対策として,住居の確保,就労の確保,満期釈放者等に対する支援の充実・強化等が重点施策の一つとして掲げられるなど,一層の推進が求められているところである。これらに基づき,矯正施設や保護観察所等で実施されている就労支援や帰住先調整等の充実・強化が図られてきたほか,より多様なニーズに対応するための新しい施策や民間等の動きが次々に始まっている。こうした新しい施策や動きの多くは,ここ数年の間に始まったばかりであり,実績データ等が十分に蓄積されていないなど,検証や評価をするのは時期尚早であるが,より効果的な就労支援や住居確保等の支援に光明を与え得るものと期待されるところであり,それぞれの抱える課題を踏まえて今後改善や充実を図っていく必要がある。