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 平成21年版 犯罪白書  

はしがき

 犯罪白書は,我が国における犯罪動向と犯罪者処遇の実情を明らかにする目的で,昭和35年に創刊され,以来毎年刊行されてきたが,本年版の白書をもって,50回目を数える。
 最近の我が国の犯罪情勢は,平成14年に一般刑法犯の認知件数が戦後最多を記録するなど危機的状況にあったが,国民と政府とが一体となって治安の回復に取り組んだ結果,犯罪の増勢に一定の歯止めが掛かるなど改善しつつある。しかしながら,長期的に見ると,治安状況は,なお厳しいものがある上,最近の世界的な金融危機等で社会的な不安感が増大し,犯罪が再び増加に転じることも懸念されている。
 本白書は,こうした現状において,平成20年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するものであるが,これと併せて,再犯防止対策の検討に資する基礎資料を提供するため,「再犯防止施策の充実」と題して特集を組むこととした。
 再犯の防止は,刑事政策上の重要な課題であり,現在,政府は,真の治安再生を目標に様々な犯罪対策を講じているが,その中でも,犯罪を生まない社会を構築するための施策のひとつとして,犯罪者を改善更生させ,市民社会の健全な構成員として取り込んでいく共生社会の実現を目指し,様々な再犯防止施策に取り組んでいる。こうした再犯防止対策を着実に推進し,効果的に成果を上げていくためには,様々な観点から,再犯の実態やその原因等についての知見を積み重ね,実情に応じた有効適切な施策について不断に検討していくことが不可欠である。そのため,法務総合研究所では,これまでも様々な視点・方法で再犯の実態と対策についての研究に取り組み,近くは,平成19年版犯罪白書でも取り上げたところであるが,本白書においても,再犯防止施策の更なる充実に資するため,特に再犯性が高いとされる窃盗及び覚せい剤事犯者を中心に,再犯の実態や要因等について,再犯防止施策と絡め,より深く掘り下げた分析を行うこととしたものである。
 今回の特集では,最近の再犯の実態や再犯者の傾向等を各統計資料に基づいて分析するとともに,窃盗及び覚せい剤事犯者に関し,特別調査を実施し,執行猶予者の再犯のリスク要因の分析や受刑にまで至った者の問題性の類型的分析を行うなど,その再犯の実態を様々な視点から概観した上,現在の再犯防止施策への取組状況について紹介し,最後に,これらの分析等を踏まえ,今後の再犯防止対策の展望を試みた。
 本白書が,再犯防止対策の必要性・重要性に対する国民の理解を深める一助となり,また,今後の施策を検討する際の資料として利用され,再犯防止施策の充実のため,いささかでも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,内閣府,警察庁,総務省,外務省,文部科学省,国土交通省その他の関係各機関から多大の御協力をいただいたことに対し,改めて謝意を表する次第である。

平成21年11月

法務総合研究所長  小 貫 芳 信