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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第6章/第2節/5 

5 高齢犯罪者の特性やニーズに応じた総合的対策の必要性

 高齢犯罪者は,高齢者人口の増加率よりもはるかに高い比率で増加していることは,前述したとおりである。高齢犯罪者には,高齢期特有の心身上の問題点,社会生活能力や性格・行動特性という生活指導上困難と思われる課題,疾病等を抱えている者が多いという問題に加え,単身,住居不安定,無収入の者の比率が上昇し,周囲に保護・監督する者がなく,経済的に不安定な状態にあり,自立能力に期待できない者も少なくないなど,若者・壮年者とは異なる問題がある。そうした高齢犯罪者に対しては,施設内外での処遇や生活環境の調整の在り方についても検討する必要があると思われる。高齢犯罪者の問題に対応した処遇等を展開するには,その生活実態を踏まえニーズを的確に把握し,そのニーズに応じた支援をいかに計画的に実施していくかということになろうが,第4章第2節でも触れたように,高齢犯罪者の心身の状況,帰住予定先の家庭・社会環境等を把握するなどして,効果的な生活環境の調整を行うなどの取組の積極化が望まれる。
第4章第1節では,高齢受刑者には心身に疾病等を抱え,直ちに福祉の支援(社会福祉施設への入所等)や病院への入院を必要とする者がおり,その中には,生活するための資金や仕事がないことを出所後の不安としてとらえている者が多くいるほか,出所後も頼れる人がいないなどの問題を抱える再入所者が多いなどの問題があることを見たが,こうした問題を持つ者が,刑務所を出所後,適切な福祉等の支援を得られないまま地域社会に出て,生活に困窮し,再び犯罪に至るということが考えられる。そのため,刑務所を出所後,早期かつ確実に福祉的な支援につなげることで社会的な受皿を確保し,自立を促して,再犯に至るリスクを最小限にする必要がある。なお,刑務所,保護観察所や更生保護施設は,これまでも福祉関係機関と意思疎通を図るなどして,刑務所を出所した者に対して,必要な福祉等の支援が得られるように努めてきたところであるが,高齢化が進み,今後も,高齢犯罪者の増加の可能性が危ぐされる中,この問題はますます重みを増していくと考えられる。そこで,高齢犯罪者の円滑な社会復帰と再犯防止のために,刑務所と連携し,保護観察所が中心となって,地域の福祉等の関係機関・団体との連携を図るとともに,生活環境の調整として,刑務所在所中の段階から,出所後円滑に福祉等の支援を受けながら自立した生活が送れるよう支援を行うことが一層重要となっている。
 また,福祉等の支援を得られるようにするための調整には,刑務所から出所してからも一定期間を要することが想定される上,社会福祉施設等への入所のための待機を要する場合もある。そこで,刑務所在所中から,出所後円滑に福祉等の支援が得られるように調整を行った上で,出所してから実際に福祉等の支援が受けられるまでの間は,更生保護施設での受入れを促進し,福祉等の支援への移行準備を行うとともに,社会生活に適応するための指導や訓練を実施することで,円滑かつ確実に福祉等の支援へとつなぐことが必要である。この点で,更生保護施設は事実上就労を期待できる者の受入れを前提とした体制となっている現状を踏まえ,このような新しい役割・機能を担えるよう同施設に福祉スタッフを配置するなどの必要な体制整備を進めることが求められる。
 さらに,比較的健康であり,就労を期待できる者については,就労支援を考慮することになろうが,就労支援については,第2編第4章及び同編第5章でも見たように,法務省は,厚生労働省と連携して,対象者の就労支援策を推進しており,刑事施設は在所中の受刑者に対し,保護観察所では保護観察対象者に対し,実施することとなっているところ,高齢者を取り巻く雇用情勢には厳しいものがあるが,この施策を就労意欲があり,健康な高齢対象者にも積極的に適用することもできよう。