前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成19年版 犯罪白書 第7編/第5章/第5節/4 

4 カナダ

(1)「危険な犯罪者」認定制度
 一定の重大な暴力犯罪や性犯罪に対する有罪の認定後,刑の量定前に,裁判所が,鑑定の結果「危険な犯罪者(Dangerous Offender)」と認定した場合に,刑期の上限の定めのない不定期刑を宣告する制度である。不定期刑が宣告された場合,刑の執行開始後7年を経過すると仮釈放審査が行われ,仮釈放が不可とされた場合には,以後2年ごとに仮釈放の可否の審査を繰り返すことになる。また,仮釈放が許可された場合であっても,不定期刑には刑期満了日がないので,減刑恩赦になるのでない限り,終生,社会内での監督を受け続けることになる。

(2)施設内における犯罪者処遇プログラム(連邦刑務所)
 犯罪者処遇プログラムは,再発防止を主たる目標とし,認知行動療法理論に基づくアプローチを中核とした多彩なプログラムから構成されており,グループワークを中心に実施され,必要に応じて個別処遇が追加される。犯罪者処遇プログラムは,入所後のリスク(再犯の可能性)とニーズ(再犯防止のため必要な行動変容や社会復帰施策)の査定の結果に基づいて決定される。処遇プログラムには,性犯罪,暴力犯罪プログラム等の犯罪態様に応じたもの,情緒維持プログラム等の行動変容をねらったもの,教育・就労・子育て教育プログラム等の社会復帰に焦点を当てたものなど各種用意されており,複数のプログラム受講が義務付けられる場合もある。プログラムの受講結果等により,新たに犯罪者のリスク・ニーズレベルが査定され,処遇プログラムが変更されることもある。

(3)社会内処遇(保護観察)
 保護観察所が行う社会内処遇には,仮釈放者に対する処遇,仮釈放後,通常の保護観察に移行する前の中間処遇施設における処遇及びプロベーション命令を受けた者に対して行う処遇がある。プロベーション命令は,刑の宣告を猶予して,善行保持義務,住居・仕事等変更時の届出義務,及び一定の処遇プログラムへの参加義務等の遵守事項を課するものである。再犯や遵守事項違反をした場合は,処罰の対象になる。

(4)長期間社会内指導監督制度
 一定の性犯罪者等について,刑期満了後も,裁判所の命令に基づいて10年以内の期間,社会内での指導監督の対象とする制度である。具体的には,裁判所が,前記(1)の「危険な犯罪者」には当たらないが,同種再犯により将来他者への害悪を及ぼす危険性を有する「長期犯罪者(Long-term Offender)」に当たると認定した場合,拘禁刑の言渡しと併せて,刑期満了後も必要な期間,社会内での指導監督を行うことを内容とする「長期指導監督命令(Long-term Supervision Order)」を期間を定めて言い渡す。

(5)特殊な行為制限命令(Sureties to keep the peace)
 人に重大な危害を及ぼす危険性のある者や,14歳未満の者への性犯罪等一定の犯罪を犯す危険性のある者について,裁判官がその危険性を認めた場合に,対象者に正式誓約書(recognizance)を提出させて,12か月以内の期間,遵守事項を課することができる制度である。遵守事項に違反した場合,処罰の対象となる。

(6)カナダ性犯罪者情報登録
 2004年から,一定の条件を満たす性犯罪者は,年に1度の警察への報告を通じて,全国規模のデータベースへの登録が義務付けられることとなった。届出義務の存続期間は,宣告刑の重さに応じて,10年,20年又は終身となっている。届出義務に違反すると処罰の対象になる。
 警察の捜査等に利用されるものであり,一般に公表はされていない。