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 平成19年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/3 

3 殺人再犯者の事例

 まず,殺人再犯者の事例として,後記本章第2節2で述べる犯行動機・原因の中で多いものから,以下の5例を紹介する。ここでいう,初度事犯とは,殺人再犯者が犯した1回目の殺人事犯をいい(以下,本章において同じ。),再度事犯とは,2回目の殺人事犯をいう(以下,本章において同じ。)。なお,128人の調査対象者の中に,3回の殺人事犯歴を持つ者が8人いたところ,これらの者については,2回目の事犯を初度事犯,3回目の事犯を再度事犯として,調査・分析を行った。調査対象者の中に,殺人事犯が4回以上の者はいなかった。

[1] 飲酒時の「憤まん・激情」による事案
 初度事犯:飲食店において,一緒に飲酒していた知人と口論するうちに,殴り合いになり,同人の頭部を十数回殴りつけて殺害しようとしたが,未遂に終わった。
 再度事犯:飲酒していた際,客であった被害者が執ようににらみつけてくるとして憤り,けん銃を取りに行って現場に戻り,被害者にけん銃を突きつけて脅したところ,同人が自らの腹を指し示し,撃てるなら撃てといわんばかりの態度に出たことなどから,侮辱されたと思い,射殺した。
[2] 「暴力団の勢力争い」による事案
 初度事犯:所属していた暴力団の組員1人と共謀の上,かねてから対立する暴力団の組員を路上で待ち伏せした上,射殺した。
 再度事犯:所属していた暴力団組長が他の組織の組長から命をねらわれていると聞き,組員1人と共謀の上,その対立する暴力団組長を射殺した。
[3] 近隣住人に対する「報復・怨恨」からの事案
 初度事犯:近隣に居住していた被害者が度々自分に悪口を言ってくると不満に思っていたところ,犯行日にも罵倒されたことに憤慨し,所携の鎌で殺害した。
 再度事犯:日ごろの度重なるトラブルにより不仲であった隣人から,自宅の有刺鉄線を無断で切断したとして犯人扱いされて激高し,自宅から包丁を持ち出して刺殺した。
[4] 「痴情」(男女間のトラブル)による事案
 初度事犯:交際相手の被害者のことを信じ切れず,このまま別れるくらいなら一緒に死んだ方がましだと思い,心中を持ちかけたところ断られたため,ひもで頸部を絞めて殺害した。
 再度事犯:交際相手であった被害者が他の男性と交際しているのではないかと疑い,問いただしたところ,まともに相手にされなかったことから自暴自棄となり,被害者を包丁で刺殺した。
[5] 「利欲目的」による強盗殺人等の事案
 初度事犯:借金の返済に窮して窃盗目的で会社の事務所に侵入したが,被害者に発見されたため,同人の頸部にタオルを巻き付け,腹部を包丁で刺して殺害しようとしたが未遂に終わった。
 再度事犯:生活費や遊興費を得るため,被害者宅に侵入して金品を物色中,同人に発見されて警察に突き出されそうになったため,台所にあった包丁で刺殺し,現金等を強取した。