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 平成19年版 犯罪白書 第2編/第5章/第6節/2 

2 主な改革の内容

(1)更生保護法(平成19年法律第88号)の成立

 平成19年6月8日に成立した本法律は,これまで更生保護の基本的な法律が犯罪者予防更生法(昭和24年法律第142号)と執行猶予者保護観察法(昭和29年法律第58号)の二つに分かれていたところ,両法律を貫く更生保護の目的について,犯罪をした者の再犯を防ぎ,非行のある少年の非行をなくし,これらの者が自立して改善更生することを助けることにあることを明確化した上で,両法律の内容を整理し,統合した。本法律は,下記犯罪被害者等の関与に係る規定を除き公布の日(同月15日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。
 本法律の主な内容は,次のとおりである。
 ア 保護観察における遵守事項の整理及び充実
 [1] 遵守事項の法的性質について,違反した場合に仮釈放の取消し等の措置に結び付く法的規範であることを明確化した。
 [2] 保護観察を充実強化するため,すべての保護観察対象者が遵守すべき一般遵守事項として,保護観察官又は保護司に対する面接及び生活の実態を示す事実の申告等を義務付けた。また,保護観察対象者ごとに定められる特別遵守事項について,犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしてはならないことなど特別遵守事項として定めることのできる事項の類型を列記した。
 [3] 保護観察の実施状況に応じた特別遵守事項の設定・変更・取消しを可能にした。
 イ 社会復帰のための環境の調整の充実
 社会復帰及び保護観察の開始を円滑なものとするため,仮釈放者・少年院仮退院者については,必要性が認められる場合に必ず生活環境の調整を行うこととし,保護観察付執行猶予者については,保護観察所の長が主導的に生活環境の調整を開始できるようにするとともに,調整の方法・内容を明記した。
 ウ 犯罪被害者等の関与
 犯罪被害者等基本計画(平成17年12月閣議決定)において,2年以内を目途に実施が求められている施策として,次の制度を導入した。
 [1] 仮釈放等の審理において犯罪被害者等から意見等を聴取する制度
 [2] 悔悟の情を深める指導監督を行うため,犯罪被害者等の心情等を保護観察中の加害者に伝達する制度
 エ その他
 保護観察官と保護司との役割分担に関する規定の整備等

(2)保護観察の充実強化

 保護観察の充実強化を図るため,重点的に保護観察を行うべき者に対する効果的な処遇の実施,性犯罪者処遇プログラム等の受講の義務化,面接等の義務化による生活実態把握の強化,しょく罪指導プログラムの実施,保護観察付執行猶予者に対する保護観察の強化,所在不明対象者に対する対応の強化等の施策を推進する(第7編第5章第3節及び第4節参照)。

(3)保護観察官と保護司との連携の円滑化

 各保護観察所においては,保護観察事件,環境調整事件等における処遇活動に関する保護司からの照会,相談等に迅速かつ適切に対応できるよう,保護観察所の相談・支援体制を充実強化するため,勤務時間外(夜間・休日等)における緊急連絡体制を整備し,また,各保護区ごとに担当保護観察官以外に別途代理の保護観察官を定めた。

(4)刑務所出所者等総合的就労支援対策等の推進

 法務省は,厚生労働省と連携し,身元保証システム,セミナー・事業所見学会,職場体験講習,トライアル雇用事業等の保護観察対象者等に対する就労支援策を推進している。また,保護観察所は,地域の関係機関・団体,経済団体等に広く働きかけて,新たな協力雇用主の開拓に努めている。
 平成18年度中に実施された就労支援の実施状況は,身元保証システム1,087件,セミナー及び事業所見学会98回,職場体験講習24件,トライアル雇用事業116件であった。

(5)自立更生促進センター構想の推進

 仮釈放者のうち,更生保護施設では受入れが困難であったり適切でない者について,国の施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な処遇と充実した就労支援を行い,その改善更生と自立を促進する「自立更生促進センター」を全国3か所に整備する。また,少年院仮退院者等に対する農業を通じた処遇と農業への就業支援を行う1施設(沼田町就業支援センター)については,平成19年度に運営を開始する。

(6)組織・体制面の充実強化

 平成19年4月から,全国の保護観察所及び地方委員会において,専門官制を導入した。保護観察所においては,これまで課長職にあった者の多くが首席保護観察官又は統括保護観察官となり,いわゆるプレイングマネージャーとして,決裁や部下職員に対する指導のほか,自らも重要な保護観察事件を担当する。この組織改編により,処遇を担当する保護観察官の層を厚くし,処遇部門の充実を図った。