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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第6章/3/(1) 

(1) 地域社会における犯罪抑止力の再生

 平成15年以降における一般刑法犯の認知件数減少の背景として,地域における犯罪予防活動の活発化等があるといわれている。地域住民が防犯意識を高め,地域が連帯して防犯パトロール等の活動を積極的,かつ,継続的に行うことによって,地域における犯罪抑止に相当の効果を挙げるものと思われる。なお,このような地域における取組の一環として,学校の登下校時における子供の安全対策等を強力に推進すれば,近時,続発している子供を標的とした特異な凶悪犯罪等を防止する上でも効果が期待できる。
 ところで,最近の犯罪情勢悪化の背景として,都市化に伴う人間関係の希薄化等の要因によって地域社会の犯罪抑止機能の低下が生じていると指摘されている。近隣住民や家族が声を掛け合って気持ちを通じ,心配して注意をしたり,時に叱り,必要に応じて相互に支え合う。そういう緊密な人間関係が失われたことが,地域や家庭の犯罪を抑止する力を減退させた可能性がある。
 そこで,希薄化した地域の連帯や家族の絆を取り戻すことによって,地域社会の犯罪抑止力を再生する必要がある。
 地域社会が一体となって,自主的防犯活動を含むボランティア活動を促進したり,少年の健全育成に取り組むなどの地道な努力を重ねれば,その活動の中で地域の連帯を取り戻し,犯罪の生じにくい社会環境を整備することができる。この関係では,関係機関と地域社会が連携し,住民相互の助け合いや防犯等の取組を続け,「地域力」を強化することが重要であろう。
 ここで,近時急増している前記の振り込め詐欺やインターネットを利用した詐欺について考えてみると,その背景に携帯電話,インターネットの普及による犯罪機会の増大があることを見逃すことはできない。新たな類型の犯罪に対しては,例えば,携帯電話や預貯金口座の不正利用の防止のような個別の犯罪対策を採ることが有効である。
 しかし,このような犯罪の急増は,単に個別の犯罪機会の増大という要因のみによってもたらされたものではなく,急増の背景には,地域や家庭における人間関係の希薄化による社会全体の犯罪抑止力の低下があり,それが犯罪機会の増大とあいまって,犯罪被害を急速に社会にまん延させていると考えるのが自然であろう。そのため,個別の犯罪対策によって特定の類型の犯罪を抑止できても,次々と別個の新たな類型の犯罪が生じてくるおそれが強い。
 したがって,新たな類型の犯罪を抑止するためにも,携帯電話の不正利用防止等の個別の犯罪対策と併せ,社会全体の犯罪抑止力を強化し,犯罪の生じにくい社会環境を整備するという観点からの取組が重要であると考える。