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 平成18年版 犯罪白書 第2編/第6章/第1節/3 

3 その他

(1) 金融犯罪・テロ対策

 1989年のアルシュ・サミットの宣言を受けて,マネー・ローンダリング対策の推進を目的に設立された金融活動作業部会(FATF)は,現在では,これに加えてテロ資金供与に関する国際的な対策と協力の推進をも担っている。FATFでは,1990年に薬物犯罪に関するマネー・ローンダリングの犯罪化,金融機関等による顧客の身元確認及び疑わしい取引についての権限ある当局への報告,不法収益の保全及び没収,国際協力の強化等のマネー・ローンダリング対策に関する「40の勧告」を採択した。同勧告は,1996年及び2003年に改訂され,マネー・ローンダリング罪の前提犯罪の拡大,本人確認義務及び疑わしい取引の届出義務の強化,法人等の悪用防止,非金融業者・職業専門家へのマネー・ローンダリング対策の適用等が盛り込まれた。また,FATFでは,2001年10月及び2004年10月に,「テロ資金供与に関するFATF特別勧告」を採択し,テロ資金対策にも取り組んでいる。

(2) 汚職・腐敗対策

 1997年に,経済協力開発機構(OECD)において,「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」が採択された。我が国は,同条約を国内において実施するため,1998年に不正競争防止法(平成5年法律第47号)を改正して外国公務員等に対する不正の利益の供与等の罪を新設した。同条約は,我が国についても1999年に効力を生じている。

(3) サイバー犯罪対策

 2001年に,欧州評議会において,「サイバー犯罪に関する条約」が採択され,我が国は,同年,同条約に署名し,2004年4月,同条約締結につき国会承認が得られた(2006年第164回国会までに関連国内法が成立していないため,未締結)。同条約は,世界初の包括的なサイバー犯罪対策に関する条約であり,[1]コンピュータ・システムに対する違法なアクセス,コンピュータ・データの違法な傍受,コンピュータ・ウィルスの製造,児童ポルノのコンピュータ・システムを通じた頒布等の一定の行為を犯罪とすることを締約国に義務付け,[2]およそコンピュータ・システムによって行われる犯罪に広く適用されるものとして,電子的な証拠一般を対象とするコンピュータ・データの捜索・押収手続の整備等の措置を求め,[3]捜査共助,犯罪人引渡し等の国際協力等について規定している。

(4) 受刑者の移送

 1983年に,欧州評議会において,外国人受刑者を母国に移送して母国で服役させる制度の創設を内容とする「刑を言い渡された者の移送に関する条約」が採択された。我が国では,2002年に国際受刑者移送法(平成14年法律第66号)が成立するとともに,条約締結につき国会承認が得られ,2003年2月に同条約への加入書を寄託した。同条約は,同年6月に我が国についても効力を生じた。2004年,同法律に基づき,初めて我が国からの送出移送が行われた。2006年7月末までの送出移送人員の合計は32人であり,その内訳は,英国11人,米国6人,フランス5人,スペイン4人,カナダ3人,スウェーデン1人,イスラエル1人,イタリア1人である。さらに,2006年4月末には,我が国における受入移送の初適用案件として,米国で服役していた日本人受刑者(1人)の受入移送を実施した(法務省矯正局の資料による。)。
 また,アジア地域では,日本に続いて韓国が,2005年7月に同条約に加入し(同年11月発効),我が国と韓国との間で受刑者の移送が可能になった。
 なお,2005年6月には,中国との間で,受刑者移送条約の締結交渉の開始に向けた予備協議が開始された。