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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第4章/第3節/5 

5 少年鑑別所の課題とこれに対する取組

(1) 資質鑑別体制の充実・強化

 近年,凶悪・特異な非行を行ったにもかかわらず,非行に至る過程や動機の解明が難しい少年が増加するなどの状況があり,従来にも増して資質鑑別体制の充実・強化が求められている。
 鑑別は,通常,一人の鑑別技官が担当しているが,収集すべき情報が多く,更に多面的な分析を行う必要がある場合には,同一庁の他の鑑別技官も共同して調査に当たり,あるいは他の少年鑑別所に所属する鑑別技官を派遣するなどして,より精密な資質鑑別を実施できるよう配慮している。
 行動観察に関しては,従来職員が肉眼で行動を観察していたが,一度に多くの事柄について詳細に把握・記録することが難しいため,事後に詳細に確認できるよう,行動観察モニター等を整備し,少年の行動をビデオ録画するなど綿密な行動観察を実施できる体制を整備している。
 今後とも,複雑・困難な問題を抱えた少年にも対応できるよう,限られた人員を有効に活用しながら資質鑑別体制を強化していく必要がある。

(2) 資質鑑別方法の充実

 近年,自己の意思,感情等を言葉で適切に表現することができないなど表現能力に問題のある少年が多く見受けられることから,少年にとって回答しやすく,かつ,その個性や特徴を的確に把握できる心理検査がますます必要となっている。
 そこで,最近,少年が社会生活を送る中で出会う様々な具体的場面を描いた複数の絵を用い,これらの絵を少年に見せ,少年が登場人物の一人となったならどのように答えるかを考えさせ,その場面についての感じ方ばかりではなく,対処行動等についても回答させることにより,少年の対人関係の持ち方の特徴を明らかにしようとする対人関係評価法が開発され,試行的に実施されている。
 今後とも,表現能力の低下など非行少年の資質上の変化に着目し,これに対応した有効な検査方法の導入を検討する必要がある。

(3) 低年齢少年の鑑別・観護

 14歳以下の低年齢少年の新入所者数の推移(昭和57年以降)は,4-4-3-8図のとおりである。
 低年齢少年の新入所者数は,平成7年以降増加傾向にあり,16年は1,609人(前年比2.1%減)であった。このうち,13歳以下の少年の新入所者数は,115人(男子84人(前年比33.3%増),女子31人(同10.7%増))であった(矯正統計年報による。)。
 低年齢少年は,語いが少なく,表現力も稚拙であることから,面接において十分な自己表現ができない場合があることに加え,理解力も乏しいことから,通常の心理検査の実施が難しい場合もある。このような場合には,箱庭を作らせたり,絵画等を描かせながら面接を行い,その作品を評価することによって,心理的な発達の程度や価値観等を査定する努力がされている。
 低年齢少年の観護に当たっては,心身が未発達であるため,様々な状況を受けいれられず,不安が高ずるなど心情を乱しやすいため,その安定を図ることが取り分け重要である。そのために,行動観察を密にし,少年の心情の微妙な変化をとらえて適切な対応を探ることや,繰り返し面接を行って,徐々に不安を取り除くようにするなど,きめ細かな処遇を実施している。
 低年齢少年の多くが義務教育中であることから,各少年鑑別所には,教科学習に必要な教科書,参考書等を備え置き,教員経験者等の外部講師を招いて授業等を行っている。また,居室内で利用可能な学習用ノートパソコン等を配備している。
 低年齢少年の入所者の増加傾向は,当面継続するものと予測されることから,発達心理学,児童精神医学等の専門家との連携を図り,その知見を活用するなどして,低年齢少年の鑑別・観護体制を強化していく必要がある。

4-4-3-8図 低年齢少年の少年鑑別所新入所者数の推移

(4) 外国人少年の鑑別・観護

 外国人少年の少年鑑別所新入所者数の推移(昭和57年以降)を,国籍等別に見ると,4-4-3-9図のとおりである。
 外国人少年の新入所者数は,近年増加傾向にあり,国籍等別に見ると,昭和57年当時は,韓国・朝鮮が多かったが,徐々に中国が増加しているほか,近年は,特にブラジルの増加が著しい。平成16年は,ブラジル163人,韓国・朝鮮152人,中国115人,その他204人であった。

4-4-3-9図 外国人少年の国籍等別少年鑑別所新入所者数の推移

 来日外国人の少年は,日本語を解さない者が大多数であるので,職員との意思疎通に困難が伴い,思わぬところで誤解が生ずるなど,その処遇には困難な問題が多い。こうした問題に対処するため,まずは通訳者を確保し,スムーズな意思疎通に努めるほか,少年鑑別所での生活を説明する生活のしおり,入所時に家族関係や生活史について自己申告させる質問用紙,各種心理検査等の外国語版(英語,ポルトガル語,スペイン語,韓国・朝鮮語,ベトナム語,中国語,タガログ語,ロシア語,ペルシャ語等)の整備に努めている。しかし,基本的な生活習慣の違い等もあり,来日外国人の処遇の難しさは,言葉の問題だけにとどまらないものと認められるので,今後ともその生活習慣や心理に対する理解を深めるなど,処遇に十分留意し,様々な工夫をしていく必要がある。

(5) 地域の青少年相談センターとしての活動の推進

 少年鑑別所は,少年非行に関する専門的知識及び経験を地域社会に還元し,地域の青少年相談センターとしての役割を果たすため,一般少年鑑別業務を更に推進していく必要がある。
 少年鑑別所では,一般少年鑑別業務の窓口向けに少年鑑別所とは異なる名称の看板を掲げているほか,庁舎とは別の棟に一般少年鑑別のための相談室を設けたり,庁舎に相談室がある場合にも,相談室への出入口を一般の出入口とは別に設けるなどして,地域における相談センターとして住民が利用しやすい環境作りに配慮している。

一般少年鑑別棟の前景(横浜少年鑑別所)

 少年非行等の諸課題に対しては,国,地方公共団体の関係機関・団体及び国民が一体となって取り組むことが不可欠であり,関係機関の連携による少年に対する支援体制を構築していかなければならない。少年鑑別所においても,地域住民にとって利用しやすい青少年相談センターとして有効に機能できるよう,様々な局面で創意・工夫し,地域の少年支援体制の一翼を担うべく,関係機関との連携を更に強化し,少年非行防止のための地域社会や住民に対する働き掛け等に積極的に取り組んでいく必要がある。