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 平成17年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/2 

2 集団場面を活用した処遇

 非行は,身近な仲間の行動を模倣し,学習することによって,その程度が深まっていく場合が多い。成人の犯罪と比較すると,少年非行は,共犯事件が多く,交友関係の持ち方によって,非行が防げるかどうかが大きく左右される。
 非行少年調査では,友人関係に対する非行少年の満足度は一般青年と比較して低く,非行少年の方が交友面での不適応を感じやすいことがうかがわれる。少年院教官調査でも,「対人関係を円滑に結ぶスキルが身に付いていない」,「周りの誘いを断れない」,「心から信頼し合える関係を持てない」など,最近の非行少年の交友関係面での不適応感の原因となる問題が多く指摘されていた。
 非行少年の中では,こうした不適応感を積極的に解消するのではなく,人に追従したり,自らの責任を回避して,不適応感から目を背けようとする傾向が強まっているように思われる。甘えの通用する身近な家族や友人関係といった狭い人間関係内にとどまって,互いに傷つけることを避けようとする傾向を強めているのではないかと考えることもできる。しかし,このような状態にとどまる限り,将来の目標達成に向けて努力しようとする向上心は生じないであろうし,社会の中で責任ある役割を果たし,自分の居場所を自らの力で確保していくことも難しいであろう。
 少年が健全に成長するために,幼児期及び学童期における親の愛情とともに,集団による遊びの大切さが指摘されている。少年は,集団の中で,遊びによる楽しみとともに,好奇心,忍耐心,感動,争い等,多くのことを学ぶことができる。しかし,遊び場所の減少,電子機器の発達等によって,集団の中での親密な交流等が不足し,発達過程の中で,本来,備えるべき自律性や責任感,向上心等が養われないまま,狭い生活空間の中に安住しようとする少年が増えているのではないかと思われる。
 しかも,狭い人間関係の中に満足し,仲間内だけで通用するルールを優先して行動する場合,社会一般のルールとのそごが生じやすいであろう。例えば,遊び半分の集団非行を繰り返す少年が増加しかねないし,仲間内のルールを優先させる間にリンチ等の粗暴行為を次第にエスカレートさせ,重大な結果を招く危険性がある。
 こうした非行少年に対しては,集団場面を活用した処遇が有効と考えられる。そこでは,大人が一方通行的に少年を指導するのではなく,少年同士が共通の目標に向け,集団的に行動する中で,互いに価値観,感情をぶつけ合いながら切磋琢磨し,成長していくことが期待される。少年同士の交流の機会を多く持たせ,多様なかかわり合いを実際に体験させることが,彼らの成長を促すことになると思われる。その過程で,自律性や責任感,向上心等を身に付けさせていくことが重要である。
 例えば,少年院においては,寮担任の教官に見守られながら,同年齢の少年が集団生活を営み,その中で時にはぶつかり合い,時には助け合いながら,集団で何かをやり遂げることの楽しさ,充実感を日々の生活の中で学んでいる。こうした基礎的な対人関係の在り方を身に付けた上で,不良仲間からの誘いの断り方,職場での会話の仕方等,具体的な対人関係の持ち方をロールプレイング等によって学習するプログラムが展開されている。保護観察所においても,介護活動等の社会参加活動によって,多様な人々の中に入って活動することの喜びを体験させ,社会への帰属感を高める処遇を行っている。こうした教育・処遇によって,社会の一員としての足場が築かれ,不良仲間,不良集団等からスムーズに離脱することが期待される。