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 平成17年版 犯罪白書 第2編/第7章/第3節/1 

第3節 捜査・司法に関する国際共助

1 捜査共助等

(1) 捜査共助に関する国際協力

 我が国の刑事事件の捜査(公判における補充捜査を含む。以下,本節において同じ。)に必要な証拠が外国に存在する場合,原則として,外交ルートを通じて国際礼譲による捜査共助を要請する。また,我が国が,外国の刑事事件の捜査に必要な証拠の提供等について外国から協力を求められた場合,我が国は,国際捜査共助等に関する法律(昭和55年法律第69号)の定める要件及び手続に基づいて,相互主義の保証の下に,共助に関する条約を締結していない外国に対しても捜査共助を行うことが可能である。
 従来,我が国は,どの国とも捜査共助に関する二国間条約を締結していなかったが,捜査協力関係の一層の強化を目指し,平成11年以降,米国との間で交渉が進められた結果,15年8月,「刑事に関する共助に関する日本国とアメリカ合衆国との間の条約」(以下「日米刑事共助条約」という。)の署名に至り,16年5月にその締結について国会により承認された(未発効)。日米刑事共助条約においては,条約に基づく共助の実施を法的義務と位置付けた上で,共助の要請・受理は,外交ルートを経由することなく,あらかじめ指定した「中央当局」を通じて行うことや,一定の範囲での共助条件の緩和等,迅速・確実な共助の実施を確保するための規定が置かれている。
 また,我が国は,平成16年11月以降,韓国との間で,刑事共助条約の締結に向けた交渉を行い,17年8月に実質合意に至ったほか,中国との間で,同年6月に同条約を含む刑事分野における国際約束の締結に関する予備協議を開始した。
 なお,近時,国際的な犯罪に対処するために策定された多数国間条約においても,条約に規定される一定の犯罪に関する捜査,訴追,司法手続において,相互に最大限の共助を与える旨を定めるほか,より一層効率的な共助の実現を目指して,「中央当局」の指定に関する規定が置かれることも多い(本章第1節記載の国際組織犯罪防止条約等)。

(2) 我が国からの外国に対する捜査共助等の要請

 我が国の刑事事件の捜査に必要な証拠の収集について外国に共助を求める場合,検察庁又は警察等が外交ルートを経由してこれを行っている。
 通常,検察庁の依頼によって共助の要請をする場合には,「検察庁→法務省→外務省→在外日本公館→相手国の外務省」,警察の依頼による場合には,「都道府県警察→警察庁→外務省→在外日本公館→相手国の外務省」という経路をたどり,それぞれ,当該国の司法当局等が捜査を実施する。
 なお,日米刑事共助条約においては,「中央当局」として我が国については法務大臣及び国家公安委員会を指定しているため,同条約発効後は,米国に対しては,我が国の法務省又は警察庁は,外交ルートを経由することなく,米国の司法省に直接共助の要請をすることができる。
 また,外国に対して,刑事事件の捜査に必要な情報や資料の提供等の協力を求める方法としては,国際刑事警察機構(ICPO)ルートによる方法もある。この場合は,一般に,各都道府県警察の協力の依頼が,ICPOの我が国における国家中央事務局である警察庁を通じて,ICPOに加盟している外国の警察に伝達され,当該警察において処理される。
 捜査共助件数の推移(最近10年間)は,2-7-3-1図のとおりである。

2-7-3-1図 捜査共助の件数の推移

 検察庁の依頼により我が国から外国に対して要請した捜査共助は,平成7年以降の10年間で,嘱託件数が合計157件であり,相手国(地域を含む。)は28か国であった(法務省刑事局の資料による。)。
このほか,警察の依頼により我が国から外国に対して行った捜査共助の要請は,最近3年間では,平成14年15件,15年10件,16年14件であった(警察庁刑事局の資料による。)。

(3) 外国からの我が国に対する捜査共助等の要請

 国際捜査共助等に関する法律には,外国から証拠の提供の要請を受けた場合とICPOから協力の要請を受けた場合について,それぞれの手続が定められている。
 外国から我が国に対する捜査共助要請の受託状況(最近10年間)は,2-7-3-1図のとおりである。
 受託件数は合計で229件,要請国は35か国(地域を含む。)であった(法務省刑事局の資料による。)。
 なお,日米刑事共助条約発効後は,米国については,米国の司法省から外交ルートを経由することなく直接我が国の法務省に共助が要請される。