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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第二章/二/2 

2 少年院収容者の教育

(一) 教科教育

 矯正統計年報によれば,昭和三七年の少年院新収容者八,二四七人のうち,義務教育未修了者は二,三〇五人であって,この数は新収容者の約二八%にあたるが,これらに対しては義務教育修了の資格を得させることを目的として,義務教育の課程を授けている。かれらの多くは,規則正しい勉学の習慣に乏しく,その学力の程度も高低さまざまであるのに加えて,少年院入院の時期が一定でないため,少年院における教科教育には一般社会における学校教育とは比較にならない困難な条件が重なっている。教科を修了した者に対して少年院長は修了の事実を証する証明書を発行することができ,この証明書は各学校の長が授与する卒業証書その他の証書と同一の効力を有することになっている(少年院法六五条)。昭和三七年度における教科修了証明書発行状況をみると,小学校修了一名,同卒業五名,中学校修了二三九名,同卒業一,二六六名となっており,会計一,五一一名の少年が証明書をうけている(法務省矯正局の調査による)。
 なお,義務教育修了者に対しては,社会生活に必要な知識,技能の補修教育を施すことを主眼とした教科教育を実施している。IV-56表によると,昭和三七年度末の学級編入人員は二,七三七人,学級数は一五四であり,一学級あたり平均人員は約一七人となっている。三年間の推移をみると,学級数,編入人員とも減少しているが,これは少年院送致人員の漸減によるものであり,そのうちで,中学校課程のみは学級数も編入人員も増加しているのは,中学校中退と在学中の新収容者が増加している事情に対応するものであり,他面,少年院の特殊化計画により,後述する学校教育を中心とする少年院の企画がしだいに具体化しつつあることにもよるものと考えられる。

IV-56表 教科学級編入人員と学級数(昭和35〜37年)

(二) 職業補導

 昭和三七年少年院新収容者の職業別人員はIV-57表のとおりで,収容少年の過半数は無職であって,職業に関する知識や理解に乏しく,また職業の経験を有する少年を有する少年の多くは単純労働で,なんらかの職業的技能を有するものはきわめて少ない。このような収容少年が,その少年院在院中に格別の職業教育を受けないで出院したとするならば,正常な生活を営むことができず,ふたたび非行におちいる危険性は大きい。かれらに対しては,まず労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養うことを主眼とし,職業生活に必要な知識と技能を授けることによって,出院後の職業選択の能力を伸長し,さらに進んで,独立自活の生活ができるように指導している,すなわち,各施設ともその実情に応じ,一ないし数種の重点的に整備された職業訓練課程を用意して,熟練技能的な職業補導を行なうとともに,若干の種目を職業指導課程として用意し,一般的な職業適応性を養わせるようにつとめている。昭和三七年の職業補導種目別補導人員はIV-58表のとおりで,訓練課程を受けているものは,職業補導人員全体の約二〇%にあたる一,三一三人で,男子では木工,農耕,板金,活版印刷等,女子では洋裁と手芸がおもな訓練種目である。職業指導課程を受けているものは五,二八三人で,男子では,農耕,園芸,竹細工,金工,畜産,木工,騰写印刷等,女子では,洋裁,手芸,事務,家政,編物等がおもな指導種目となっている。

IV-57表 少年院新収容者の職業別人員の率(昭和37年)

IV-58表 少年院職業補導種目と補導人員(昭和37年)

 収容少年が,在院中になんらかの職業に関する資格や免許を取得することは,出院後の就職を容易にし,また少年に自己の知識や技能に自信をもたせる意味で,その更生上きわめて有意義なことであるので,施設外の試験場で受験させる場合のほか,試験の委託を受けたり,出張試験を依頼する等なるべく多くの収容少年に受験の機会を興えるようにつとめている。IV-59表は最近三年間における資格,免許取得人員等の推移を示したものであるが,受験者数も合格者数も年ごとに増加しており,その学習意欲のおう盛さをうかがうことができる。種目別にみると例年どおり,珠算が大半であるが,昭和三七年には,自動車運転が急激に増加したことが注目される。

IV-59表 資格免許取得の人員等(昭和35〜37年)

 IV-60表は在院中に受けた職業補導の種目と,出院後従事する職種との関連をみたものであるが,自動(転)車の六六・四%を筆頭に,商業,理容,クリーニング,金工,木工等専門の知識,技能を修得したものは,出院後関連した職種につきやすいようである。なお,出院時において,いまだ就職のきまっていないものは,出院者総数七,三九七人のうち一,八三二人(二四・八%)で,昭和三六年の二八・九%に比べ,かなり好転していることはまことに喜ばしい現象である。

IV-60表 在院中の職業補導種目と出院後の職業との関連状況(昭和37年)

 教科教育および職業補導に関連して,公費による通信教育制度がある。昭和三七年度における,その実施状況はIV-61表のとおりで,同年度における受講者の総数は一,六九四人で,このうち年度内に修了したものは,八〇八人である。講座別にみると,自動車,孔版,洋裁,簿記,ラジオ,テレビ等が多く,この制度を活発に利用する努力がなされている。

IV-61表 公費通信教育実施人員等(昭和37.4〜38.3)

(三) 生活指導

 少年院における生活指導は,収容少年の個性を伸ばし,社会性の発達を図ることを目標とするものであって,教科教育,職業補導等の他の教育活動において養われる社会性と関連を保ち,それを補足し,深化し,統合する役割を果す重要な矯正教育活動である。すなわち,入院当初には,その不安定な状態を取り除いて,すみやかに新しい生活に慣れ親しむことを主眼とした指導を行ない,期間の経過にしたがって,しだいに自己表現と自己抑制の能力を身につけさせ,他人の立場を尊重する習慣や,職業生活を満足感をもって送ることのできる考え方を身につけさせ,最後に,その出院前の時期には,社会の実情を理解させ,その社会の中で,自主的に判断して,秩序に従う行動をする心構えを作らせる等,出院前準備教育がなされる。
 少年院における生活指導は,少年の個性やその問題点に即して行なわれるものであるから,それは強制的画一的しつけ訓練というよりは,むしろ個別指導に重点がおかれ,収容生活のあらゆる場面で,いろいろな活動を通じ,自主的で好ましい態度や習慣を育成し,適応の能力を伸ばすようにつとめている。このため,社会教育講話,余暇活動,篤志委員面接,集団ならびに個別心理療法等が行なわれている。
 少年院の収容生活は,とかく無味単調になりがちであるが,これにうるおいを与えるとともに,進んでは収容少年の自主性を養い,社会性を助長するため余暇活動を活発に利用しているが,そのおもなものはクラブ活動である。VI-62表は,昭和三七年におけるクラブ活動の実施状況を示すものであるが,文化活動としては,音楽(声楽,器楽),美術(絵画,版画,工芸,書道),文学(文芸,短歌,俳句)等が活発に行なわれており,体育活動としては,バレーボール,野球,卓球等に多数の少年が参加している。

IV-62表 クラブ活動所属人員と実施回数(昭和37年)

 矯正施設の収容者が心に悩んでいるさまざまな問題の解決に援助を興えるため,専門的知識と豊かな経験を有する民間篤志家の助言指導活動に期待する篤志面接委員制度は,少年院においても,活発に実施されており,昭和三七年一二月末日現在で五七五名(うち女子二〇六名)の委員が委嘱をうけて,この仕事に従事している。面接の内容はIV-63表に示すとおりで,社会生活に破れた自己の精神的はんもんや,かれを取り巻く家庭についての相談,さらにまた,出院後の職業生活に関する相談等が多い。

IV-63表 篤志面接の内容別実施回数(昭和36,37年)

 少年院の教官は新入者の施設生活への早期適応や問題少年の心情安定をはかるため,ふだんに相談助言を行なっているのであるが,これとともに性格のかたよりの著しい一部の少年に対しては心理技官等の専門職員によって,個別ならびに集団のカウンセリング,精神分析,心遣劇療法,遊戯療法等が実施され,かなりの効果をあげてはいるものの,この種の専門技術者の数はきわめて限られているため,いまだ専門的な心理療法等を活用した体系的な処遇や,恒常的な組識活動を持つまでにはいたっていない。
 その他,映画,演劇等の行事,社会見学ないし視聴覚教育も,部外篤志家の協力を得て活発に実施されている。