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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/1 

二 未決拘禁者の処遇

1 未決拘禁者の処遇方針

 未決拘禁者(被告人および被疑者)は,受刑者と同じように,身柄を強制的に施設に収容されるが,それは刑罰の執行を受けるためのものではない。裁判の手続上,ただ犯罪の嫌疑のもとに,その被疑者または被告人が逃走し,または証拠をいん滅するおそれのある場合,そのような事態の発生を予防するためにとられる強制処分である。したがって,裁判によって,有罪の判決が確定するまでは無罪者であると推定され,また現に無罪を言い渡されるものもあるので,次のように,受刑者とは異なる取扱いを受けている。
(1) 未決拘禁者を収容するために,とくに設けられた施設(拘置所,拘置支所),または刑務所内に設けられた特別の区画(拘置監という)が用意されている。
(2) 居房は,原則として独居房があてられる。これは,未決拘禁の目的である証拠いん滅の防止をはかり,かつ本人の名誉を保全するのに適しているからである。また,居房には,受刑者の場合と異なり,畳を敷くことが認められているが,これも,一般社会との生活格差を少なくするためである。
(3) 同一事件に関連のあるものは,居房を別にし,かつ,居房外においても接触しないよう配慮される。これは,とくに証拠いん滅の防止のためにとられる措置で,受刑者には必要のないものである。
(4) 未決拘禁者の作業は,請願作業であって,強制されることはない。本人が願い出た場合にのみ,刑務所で行なっている作業の業種の範囲内で,その選択の自由が認められる。しかし,未決拘禁の目的に適当した業種に限られ,一般工場作業や構外作業は許可されない。また,その収入は,刑務作業として国庫に帰属し,就業者に対しては,報酬は支払われず,作業賞与金が受刑者と同様に与えられる。未決拘禁中の,この作業賞与金の使用は,受刑者よりやや制限がゆるやかである。
(5) 教かいは,原則として行なわない。しかし,願い出のあった場合には許される。教育はとくにほどこされない。しかし,文書図画について,その閲読は,規律に害のないものに限って許されることになっている。
(6) 給養面で,衣類,寝具は自弁が原則であり,糧食も自弁が許されるほか,日常使用する物品についても,大幅に自弁が許されている。これらの点は,受刑者の場合とちがって,拘置される前の生活程度を,拘置されたのちも,引続き,できるだけ維持させ,個人の自由を認めようとする措置である。しかし,食糧の自弁については,紀律や衛生に害のないかぎり許されるのであって,無制限ではない。また,自弁のできないものに対しては,官から貸与または給与されることになっている。
(7) 信書の発受は,その相手かた,回数などについて,受刑者の場合とちがって,全く制限されない。ただし,その内容は検閲される。その効果として,未決拘禁の目的をそこなったり,施設の安全をおびやかすような内容であれば,その発受を禁止し,または,その一部を抹消,削除される。
(8) 面会も,受刑者の場合と異なり,相手かたおよび回数についての制限はなく,とくに弁護人との面会は,立会人をつけず,当事者としての防ぎよ権が保障されている。なお,裁判所が,接見禁止の決定をしても,弁護人との面会は禁止されない。
(9) 未決拘禁者の所有金品は,受刑者の場合と同じように領置されるが,物品の外部からの差入れについては,受刑者よりも,かなり範囲が広い。
(10) 頭髪およびひげについては,受刑者の場合と異なり,衛生上とくに理由がないかぎり,本人の意のままである。
(11) 施設の紀律を維持するため,紀律違反者には懲罰が科される。しかし,受刑者の場合と異なり,食事の量を減らす懲罰(減食罪)は科されない。