前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和39年版 犯罪白書 第一編/第二章/一/2 

2 財産犯罪

 本項において,財産犯罪としてとり上げた罪名は,窃盗,詐欺,横領,賍物,背任である。強盗と恐かつは財産犯としての性質も有するが,暴力犯としての性質の方が強いと考えられるので,暴力犯罪の項において述べることとした。
 最近五か年間の財産犯罪の発生件数の推移をみると,I-9表のとおりである。すなわち窃盗罪は逐年増加の傾向にあるが,詐欺,横領は反対に累年滅少傾向にあり,賍物,背任においては多少の起伏はあるがおおむね減少の傾向がみられ,特に昭和三八年において著しく減少しているのが目だっている。

I-9表 財産犯罪発生件数(昭和34〜38年)

 次に検挙人員の推移をみると,I-10表のとおりである。この表によると,窃盗を除く詐欺,横領,背任および賍物関係のいわゆる財産犯の検挙人員が,最近五年間逐年減少していることが知られる。発生件数との間に相当の開きがあるのは,前述したとおり,一人で数件を犯すものがこの種の財産犯において比較的多いためである。

I-10表 財産犯罪検挙人員数(昭和34〜38年)

 財産犯と国内の経済状態との間に密接な関係があることは,内外の学者によって指摘されているところであり,右のように財産犯が減少していることには,わが国の経済状態が好転し,国民の経済生活が一般的に良好となったことが大きく影響していると考えられる。もとより財産犯罪のすべてが経済状態の影響を強く受けるものではなく,その影響を強く受けるのは,生活が窮乏したために犯すもの,または収入や利益が減少したのに,それに応じて生活や営業等の規模を圧縮することの困難なために犯すものなどである。これに反し,身分不相応な生活,不健全な娯楽,享楽などを求めるための犯罪,常習者による犯罪などには経済状態の影響はむしろ少なく,その者のパーソナリティなどが強く影響するように思われる。したがって,国内の一般的経済状態と財産犯罪との関係を明らかにするには,最近の財産犯罪にどのような性質のものが多いか,財産犯罪を犯した者が,どのような経済状態にあるかなどについての詳細な原因論的な調査が必要であるが,そのような調査は困難であるので,ここでは,一般の統計にあらわれたところをみるにとどめる。
 なお,詐欺,横領,背任,賍物などの犯罪についても,その統計には相当の暗数があり,その検挙率も額面どおりとはいえないかも知れない。しかし,これらの犯罪は暗数が特に多い犯罪ではないから,特別な事情がないかぎり,各年の暗数に大きな変動はないと考えられ,したがって統計面の減少は実際の犯罪の減少を示しているとみてよいであろう。
 このように詐欺,横領,背任,賍物罪が減少傾向にあるにもかかわらず,窃盗罪のみが増加しているのは,いかなる事情によるかといえば,I-11表は最近五年間の財産犯検挙人員中,少年の占める割合の推移をみたものであるが,この表によると,詐欺,横領においては,少年の占める比率に毎年大きな差異はみられないのに対し,窃盗と賍物罪においては,少年の占める比率が逐年大幅に増加しているのがわかる。そして,さらにその実数の動きをみると,少年の窃盗の増加が,そのまま窃盗総数の増加となってあらわれているのである。なお,この場合の少年は,主として一五才以下の年少少年である。

I-11表 主要財産犯中少年の占める比率の推移(昭和34〜38年)