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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第3章/第1節/2 

2 過剰収容に対応するための工夫

 過剰収容を抜本的に解消するためには,施設を整備して収容定員を確保するとともに,人的体制を整備することが必要になるが,新たに施設を建設するには多額の費用と長い期間が必要なため,当面の対応として,以下に見るような様々な工夫がなされている。

(1) ハード面における措置

ア 居房の確保

 被収容者が増加した場合に,まず問題となるのは,居房の確保である。定員を超える人員を収容しなければならないことから,多くの施設で,二段ベッドを設置して室内のスペースを確保した上,雑居房に定員(一般的には6名)を1名ないし2名超えて収容するなどの措置がとられている。また,やむを得ない場合には,独居房に2名を収容するいわゆる「2名独居」が実施されることもある。そのほか,倉庫,教室,集会室等を改修・模様替えして,居房として利用する施設も少なくない。
 平成16年5月31日現在における二段ベッドの設置状況を見ると,医療刑務所を除く63施設(刑務所55,少年刑務所8)のうち48施設で雑居房に二段ベッドを設置しており,また,23施設で独居房に二段ベッドを設置している(法務省矯正局の資料による。)。
 また,最近3年間において,模様替えによって既決収容定員を増加させた施設は,平成13年度が45施設(定員増1,377人),14年度が該当なし,15年度が23施設(同323人)である(医療刑務所を除く。法務省矯正局の資料による。)。
 写真1は,収容可能な人数を増やすため,雑居房にベッドを設置した状況です(このようなものを含めて二段ベッドと呼んでいます。)。写真2は,独居房に布団を2人分敷いた「2名独居」の状況です。施設によっては,写真3のように,図書室の一部に二段ベッドを設置して,居房に仮に転用しているものもあります。写真4は,工場に出役した受刑者が作業開始前に整列している状況です。写真5は,人数が多すぎて工場の食堂に入りきれないため,一部の者が工場の片隅で食事をとっている様子です。

写真1

写真2

写真3

写真4

写真5

イ 工場,食堂等のスペースの確保

 過剰収容の影響を受けるのは居房だけではない。受刑者の大半を占める懲役受刑者は,刑務作業に従事することとされているが,就業人員の増加に伴って工場内の作業スペースが不足するようになったため,教室等を模様替えして工場に変更したり,隣接する倉庫等を工場に併合して作業スペースを拡張し,あるいは,舎房通路の一部を作業場として利用するなどの措置がとられている。また,工場作業に従事する受刑者は,工場付設の食堂で昼食をとることとなっている場合が多いが,全員が食堂に入りきれないため,工場内の通路や作業スペースにテーブルを並べて食事をさせたり,他の場所を改修して食事場所として利用する施設も少なくない。

5-3-1-3図 各行刑施設の施設別収容状況

5-3-1-4表 各行刑施設の施設別収容状況

(2) ソフト面における措置

 以上のようなハード面での措置のほか,各施設においては,いわゆるソフト面,すなわち施設の運営面においても,様々に配慮している。
 例えば,過密な環境のためにストレスがたまりがちな受刑者の心を和ませるため,居房の壁を塗り替えて美観を改善したり,刑務所内に自主管理の花壇を設けることなどが行われている。また,ストレス発散の方策として,運動会,慰問等の行事を増やすことも行われているが,過剰収容の影響によって,全員参加の行事を実施するのが困難になっているため,施設によっては,同じ行事を2回以上に分けて実施しているところもある。
 以上のほか,舎房,工場,食堂,講堂等が混み合い,移動,洗面,用便,入浴等に時間がかかるようになったことを考慮して,動作時間の運用に柔軟性を持たせたり,対人関係による摩擦を軽減するため,おおむね3か月をめどに部屋替えを行って,同じ者同士が長期間同室にならないようにするなど,各施設ごとに様々な工夫を積み重ねている。