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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第6章/第2節/1 

第2節 矯正施設における処遇

1 行刑施設における処遇

(1) 概況

 5―6―2―1図は,殺人・強盗の新受刑者数及び全新受刑者数に対する比率の推移を見たものである。殺人については,新受刑者数で見ると,昭和48年からほぼ横ばい状態であったが,63年から減少した後,平成5年ころからやや増加傾向にあり,新受刑者数に占める構成比では,横ばいないしは低下傾向にある。強盗については,新受刑者数では,横ばい傾向から昭和60年から減少した後,平成3年以降増加に転じ,9年以降増加傾向が強まっており,構成比も同様に3年以降上昇傾向が認められる。2年と14年とを比べると,新受刑者数で3.5倍,構成比で1.7%から4.6%へ2.9ポイント増となっている。
 5―6―2―2図は,殺人・強盗の新受刑者刑期別人員の推移を見たものである。裁判所での科刑状況の重罰化に相応して刑期も当然長期化しているが,このことが最近における新受刑者数全体の急増と行刑施設の過剰収容(第2編第4章第1節参照)をもたらす一因となっているものと思われる。

5―6―2―1図 殺人及び強盗懲役新受刑者数及び比率の推移

5―6―2―2図 殺人及び強盗事犯懲役新受刑者の刑期別人員の推移

(2) 初入者・長期刑受刑者・外国人受刑者の増加

 殺人・強盗事犯新受刑者のうち再入者の比率を見たものが,5―6―2―3図[1]である。殺人・強盗とも再入者率は低下する傾向にある。実数を見ると,殺人は平成5年以降,強盗は3年以降,初入者の増加傾向が認められる。また,殺人・強盗の新受刑者中,執行刑期8年以上のL級に分類された者の推移を見たのが,5―6―2―3[2]図である。殺人については,この10年間に増減を繰り返しながらも緩やかに増加し,平成5年の154人から14年には195人に増加している。一方,強盗については,10年以降の増加が顕著であり,14年には139人と,5年の43人の3.2倍になっている。次に,殺人・強盗の新受刑者中,来日外国人の推移を見たのが,5―6―2―3[3]図である。殺人については,横ばいであるが,強盗については11年以降の増加が著しい。

5―6―2―3[1]図 殺人及び強盗における新受刑者の再入者率の推移

5―6―2―3[2]図 殺人及び強盗におけるL級新受刑者の推移

5―6―2―3[3]図 殺人及び強盗における来日外国人新受刑者の推移

(3) 再入受刑者と前刑罪名の種別

 殺人・強盗の再入受刑者について,前回服役した罪種別人員の推移を見たもの(ただし,殺傷犯(殺人・傷害),強盗,窃盗,恐喝に限定している。)が,5―6―2―4図[1][2]である。また,最近5年間の殺人・強盗の再入受刑者について,前回服役した罪名別の構成比を見たものが,5―6―2―4図[3][4]である。
 殺人受刑者については,前刑が殺傷犯である者が多いが,窃盗もこれに次いで多く,平成10〜14年の平均比率で見ると,殺傷犯が28.4%,窃盗・強盗及び恐喝といった金品奪取ないし喝取を目的とする財産犯が27.2%とほぼ拮抗している一方で,覚せい剤取締法違反も18.4%と比較的多い。殺人受刑者に関する限り,前回も殺傷犯で服役している場合が多いとは限らず,窃盗や覚せい剤取締法違反で受刑していた者が殺人を犯す場合もほぼ同等にあることがうかがえる。
 これに対して,強盗受刑者については,前刑が窃盗である者が圧倒的に多く,平成10〜14年の平均比率で見ると,窃盗38.5%,強盗12.2%,強窃盗と恐喝を合わせると54.9%と半数を超え,殺傷犯は8.6%,覚せい剤取締法違反は13.1%と殺人受刑者に比して低い。強盗受刑者に関する限り,前回財産犯,特に,窃盗・強盗で受刑していた者の比率が高いということがうかがえる(窃盗常習者が強盗・強盗殺人を犯す事例も相当数認められ,窃盗から強盗へと移行する類型があることについては,第5章第2節を参照されたい。)。

5―6―2―4図 主要前刑罪種別受刑者数の推移

(4) 行刑施設における被害者の視点を取り入れた教育の実施

 近時,被害者保護・被害者支援が社会的要請となる中で,行刑施設における教育活動(第2編第4章第3節3参照)の実施に当たっても,犯罪被害者の視点を取り入れることが重要な課題となっている。このような状況を踏まえて,行刑施設においては,平成13年度から,被害者保護・被害者支援について十分な学識を有する第三者を講師として招へいし,受刑者の内省を促し,罪の意識を覚せいさせるための指導を実施する「ゲストスピーカー制度」を導入し,全国の少年刑務所,女子刑務所及び犯罪傾向の進んでいない成人男子受刑者を収容する刑務所,計34施設(14年7月時点)で実施している。13年6月から14年7月までの間における実施回数は383回(実施対象人員1万1,481人)であり,これを実施態様別に見ると,処遇類型別指導の一環として実施されたものが112回(同1,161人)と最も多く,次いで,刑執行開始時の指導として93回(同1,153人),釈放前指導として44回(同350人),個別面接として32回(同32人),全体講話として24回(同7,585人)などである。14年7月現在,講師は80人で(内訳は,民間の被害者団体等のボランティア活動家,被害者学等の研究者,精神科医師や臨床心理等の専門家,法曹関係者や警察活動関係者等),被害者及び遺族の苦しみを具体的な事実に即して話してもらうなどしている(法務省矯正局の資料による。)。
 このほか,処遇類型別指導においては,生命尊重教育,しょく罪教育,性犯罪防止教育など,犯罪に対する内省と被害者へのしょく罪意識をかん養することを目的とした指導の充実が図られてきている。