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 平成14年版 犯罪白書 第5編/第1章/2 

2 暴力的9罪種の特徴及び分析の内容

 本特集で主たる分析対象とする強盗,傷害,暴行,脅迫,恐喝,強姦,強制わいせつ,住居侵入及び器物損壊の9罪種(以下,本編では「暴力的9罪種」とする。)は,単にここ数年の認知件数が著しく増加しているだけではなく,日常生活で身近に起こり得る犯罪であって,人や物に対して直接的な暴力を加えたり,あるいは平穏な生活環境を侵害したりする点においても共通するものがある。しかも,その犯行態様は,加害者と被害者が直接相対する態様(コンタクト・クライム)が多く,この場合被害時の恐怖感や残存する心的外傷をはじめとして,被害者の心身に与える影響は深刻であると思われる。この被害者に与える影響は,加害者と被害者が直接相対しない場合であっても同様であると考えられ,むしろ,住居侵入などは,被害者のプライバシーが著しく侵害されるにもかかわらず,加害者についての情報がなく,直接相対する以上に不気味な不安感を与える場合も少なくないと思われる。さらに,近隣住民に対しては,自らも被害に遭う危険性を感じさせるなど,不安や恐怖感を増幅させることが推測される。
 これら9罪種は,著しく増加しているとはいえ刑法犯の認知件数全体から見ればわずか7.4%を占めるに過ぎないが,前記のように,身近で発生し得る犯罪であり,被害者の心身に対する有形無形の侵害も大きく,不安や恐怖感を増幅させるおそれがある犯罪だけに,国民の安全で安心できる生活を維持するという観点から見た場合,刑法犯の認知件数に占める割合が少ないゆえんをもって楽観視することは許されないであろう。このような9罪種について,その動向を明らかにし,その増加要因や社会的な背景などを分析することは,この種の犯罪及び犯罪者に対する有効な施策を講ずる上でも,個々の犯罪原因を究明する上でも,さらに,個々の被害者の救済や地域住民の不安や恐怖感への対処を考慮する上でも,有益であろうと思われる。
 一方,凶悪重大犯罪の中核をなす殺人は,刑法犯の認知件数全体に占める割合が0.037%に過ぎないが,行為自体が凶悪で結果も重大であり,それだけに被害者やその家族(遺族),更には地域住民に衝撃的な影響を与え,広く社会の耳目を集める究極の暴力犯罪である。したがって,認知件数等の増減に関わらず,暴力的9罪種の動向分析に併せて殺人についても統計的な分析を試みることは,暴力的犯罪の全体像や全般的動向を見る上で不可欠であると考えられる。