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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第2章/第3節/2 

2 罪名別認知件数の推移に見られる特徴

 平成8年以降の最近5年間において,窃盗を除く一般刑法犯の認知件数の増減については,次のような特徴が認められる(巻末資料IV-2参照)。

(1) 暴力的色彩の強い犯罪類型の顕著な増加

 一般刑法犯のうち,前節までに検討した窃盗と同様に財物の取得を直接の目的とする罪名について見てみると,凶悪犯である強盗(最近5年間で2,710件・110.0%増)及び強盗と境を接する粗暴犯である恐喝(同6,700件・54.8%増)の増加が顕著である。強盗及び恐喝の認知件数は,昭和49年以降増減を繰り返し,昭和末期ころには一時的に減少傾向も見られたが,強盗が平成2年から,恐喝が4年から,いずれも増加傾向に転じ,その傾向が継続している。これは,窃盗の中で暴力的色彩の強いひったくりが平成期に入って認知件数の急増を見たこと(本章第1節2参照)と軌を一にする。
 なお,凶悪犯の中でも財産の取得を直接の目的としない殺人は,平成2年以降,認知件数が1,200件台でおおむね安定していたが,そうした中で,10年及び12年は,認知件数が1,300件を超え,特に12年は1,391件(前年比126件増)と,最近では昭和63年に次ぐ認知件数となっており,増加率は小さいものの今後の動向に注意を要するものと思われる。
 逆に,同じ財産犯でありながら強盗や恐喝と異なり,知能犯である詐欺(最近5年間において5,010件・10.1%減)や遺失物等横領を除く横領(同68件・4.2%減)が減少している。詐欺の認知件数は,昭和49年から60年までは増加傾向にあったのが,その後減少傾向に転じ,この傾向は最近5年間まで継続している。また,遺失物等横領を除く横領も,49年以降一貫して減少傾向にある。
 その結果,昭和49年には,強盗・恐喝・ひったくりの認知件数合計は,詐欺・遺失物等横領を除く横領の認知件数合計の35.5%に過ぎなかったのが,平成10年には逆転し,12年にはこれを52.7%も上回った。このように財物の取得を直接の目的とする一般刑法犯においても,その軸足が知能犯的事案から暴力的事案に移っていることが認められる。
 性犯罪においても,強姦(最近5年間において777件・52.4%増)や強制わいせつ(同3,387件・84.1%増)のような暴力的事案が急増している。強姦と強制わいせつの認知件数は,昭和49年以降減少傾向を続けていたのが,強制わいせつが平成3年に,強姦が9年に,それぞれ増加傾向に転じ,以後増加を続けている。同じ性犯罪でも,わいせつ物頒布等は,最近5年間で64件・10.3%の減少を示しており,性犯罪でも暴力的事案の増加傾向が進行しているといえる。
 そのほか,財産の取得を直接の目的としない粗暴犯である傷害(最近5年間において1万2,308件・68.9%増)や暴行(同6,756件・104.4%増)も急増している。傷害及び暴行の認知件数は,昭和49年以降いずれも減少傾向にあったのが,暴行は平成7年から,傷害は8年から,それぞれ増加に転じた。そして,12年では,前年比で傷害が9,951件(49.2%)増,暴行が5,433件(69.7%)増と増加の度合いを強めている。同様に,脅迫は,粗暴犯の中にあって近年における認知件数がほぼ横ばい状態であったのが,12年では,前年比1,052件(105.7%)増と大幅な増加に転じている。
 その他の刑法犯のうち,暴力的事案である器物損壊等(最近5年間において5万1,537件・141.6%増)は,前記のとおり,全期間を通じて増加傾向にあったが,それでも,平成4年から7年にかけては,認知件数がおおむね3万件でほぼ落ち着く兆しを見せていた。しかし,その後再度増加に転じ,12年では,前年比3万4,391件(64.2%)増と,一層増加を加速している。
 こうした暴力的事案である強盗,傷害,強制わいせつ,器物損壊等の4罪種の認知件数の増加数合計は,最近5年間で6万9,942件である。この増加数合計の,該当期間における窃盗を除く一般刑法犯の認知件数の増加数(8万8,885件)に対する比率は78.7%に達している。さらに,恐喝,暴行,脅迫及び強姦という認知件数の増加が著しい暴力的事案の増加数を前記増加数合計に加えると,前記比率は96.0%に達している。最近5年間の窃盗を除く一般刑法犯の認知件数の増加は,これらの暴力的事案の増加によるところが大きいと思われる。

(2) 窃盗と関連又は近接する犯罪の増加

 前節までに記述した窃盗の増加に符合して,これに関連又は近接する犯罪も増加している。
 その典型は,住居侵入(最近5年間で9,730件・86.5%増)や盗品譲受け等(同543件・45.7%増)である。住居侵入は,窃盗のみならず各種の犯罪等の手段として行われる場合があり,また,盗品譲受け等は,必ずしも窃盗のみの被害品の授受等を要件とするものではない。しかし,住居侵入や盗品譲受け等は,実際には窃盗と関連ないし近接することが多い。住居侵入の認知件数は,昭和49年以降,全体としては増加傾向が続いているが,この間,62年から平成8年まではほぼ横ばいであったものの,9年以降は明確な増加を示している。また,盗品譲受け等の認知件数は,昭和49年以降むしろ減少傾向が続いていたが,平成9年以降増加に転じた。特に,盗品譲受け等は,事後的に犯罪を促進する事後従犯としての性格を有するので,この認知件数が近年増加に転じたことは,その前後を通じて増加を続けている窃盗の中にも,いわゆる故買屋(盗品等の買受けを主な生業とするもの)の存在を前提とする職業的事案が増加していることをうかがわせ,窃盗を増加させる要因にもなり得るものとして懸念される。
 一方,窃盗を除く一般刑法犯の中で,全期間を通じて増加傾向にあった遺失物等横領は,その認知件数が,平成4年以降,5万件台半ばから6万件台の間で増減を繰り返していたが,最近5年間において,2,742件(4.7%)の減少となり,特に12年において,前年比1万1,785件(17.4%)の減少を示した。遺失物等横領の中では,遺失された自転車やオートバイの領得に係るものが相当な割合を占めると思われるが,こうした遺失物等横領の認知件数の頭打ち傾向は,窃盗における自転車盗やオートバイ盗の認知件数の増加が鈍化していることとも関連するものと思われる。