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 平成13年版 犯罪白書 第2編/第6章/第3節/2 

2 犯罪被害者等に対する給付金支給制度

 犯罪被害者又はその家族に対する損害のてん補は,本来加害者が行うべき民事上の問題である。しかし,加害者には十分な資力を有しない者も多く,犯罪被害者の救済のため,国の積極的な関与を必要とする場合がある。国が行っている被害者救済制度としては,犯罪被害者等給付金支給法(昭和55年法律第36号)に定められたものがあり,また,事実上犯罪被害者救済の機能を営むものとして,証人等の被害についての給付に関する法律に基づくものがある。

(1) 犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律

 犯罪被害給付制度は,昭和49年に発生した過激派集団による無差別爆破事件を契機に,こうした爆弾事件やいわゆる通り魔殺人の被害者等が実質的にはほとんど救済されないという実情から,国による被害者の救済の制度の新設を求める世論が高まったという社会的背景の下,55年5月1日に制定された犯罪被害者等給付金支給法に基づき,56年1月から運用を開始した。
 その後,平成7年の地下鉄サリン事件等の無差別殺傷事件の発生等を契機に,被害者の置かれた悲惨な状況が広く国民に認識されるに伴い,犯罪被害給付制度の拡充を始めとして被害者に対する支援を求める社会的な気運が急速に高まったことを踏まえ,平成13年7月1日に支給対象及び支給額の拡大を中心とした制度の拡充が図られ,法律の名称も「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」と改められた。
 犯罪被害給付制度は,人の生命又は身体を害する故意の犯罪により,不慮の死を遂げた者の遺族又は重傷病を負い若しくは傷害が残った者に対し,国が犯罪被害者等給付金(以下「給付金」という。)を支給することについて定めている。これは,加害者側に資力がないことなどから,被害者やその遺族が事実上救済の道を閉ざされている場合があることを考慮し,これを救済するために設けられた制度である。
 II-32表は,同法が施行された昭和56年1月1日から平成12年12月31日までの20年間における同法の運用状況を見たものである。

II-32表 犯罪被害に対する給付金申請・支給状況

 給付金は,一時金であり,死亡した者の遺族に対して支給される「遺族給付金」と障害の残った者に支給される「障害給付金」,重大な負傷又は疾病を受けた者に対して支給される「重傷病給付金」の3種類がある。遺族給付金と障害給付金の額は,被害者の年齢や勤労による収入額等に基づいて算定され,被害者一人当たりの遺族給付金の最高額は,1,573万円,障害給付金の最高額は1,849.2万円となっている。重傷病給付金は,入院期間14日以上,加療期間1か月以上の被害者に3月を限度として,保険診療による医療費の自己負担相当部分が支給される。

(2) 自動車損害賠償補償制度

 自動車損害賠償保障法は,自動車事故の急激な増加に伴う被害者の保護の万全を期し,自動車損害賠償保障制度を確立するため,昭和30年7月に制定され,同年8月から31年2月にかけて施行された。
 同法は,自動車の運行によって,人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより被害者の保護を図ることなどを目的としており,同法による自動車損害賠償保障制度は,被害者救済制度の一環としてとらえることができる。自動車損害賠償保障制度の中核となっているのは,自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)及び自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責共済」という。)である。
 さらに,自賠責保険及び自賠責共済を補完するものとして,政府が行っている自動車損害賠償保障事業がある。これは,いわゆるひき逃げや無保険車による事故の場合,自賠責保険や自賠責共済では被害者が救済を受けられないため,政府が被害者に対して損害額をてん補するものであり,そのてん補の額は自賠責保険に準じている。平成11年(会計年度)の保障事業による保障金の支払状況(ひき逃げ3,149件及び無保険488件)を見ると,支払額は,死亡93人に対し約18億4,600万円,傷害3,544人に対し約19億1,100万円であり,死亡者一人当たり平均約1,985万円,負傷者一人当たり平均約54万円が支払われている(国土交通省自動車交通局の資料による。)。

(3) 証人等の被害についての給付に関する法律

 証人等の被害についての給付に関する法律は,刑事事件の証人又は参考人が,裁判所,裁判官又は捜査機関に対して供述を行い,又はそのために出頭することについて,その者や近親者が他人から身体又は生命に害を加えられた場合,及び国選弁護人がその職務を行い又は行おうとしたことにより,同人又はその近親者が,前記同様の被害を受けた場合に,国において療養・傷病・障害・遺族・葬祭・その他の給付を行うことを規定している。平成8年4月1日からは,同法の一部改正により,被害者が傷病給付又は障害給付の支給原因となった障害により必要な介護を受けている場合における給付として介護給付が新たに設けられた。
 この法律による給付は,給付を受けようとする者が法務大臣に対して請求し,その裁定によって支給される。これまでの給付件数は5件である(法務省刑事局の資料による。)。