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 平成12年版 犯罪白書 第6編/第5章/第5節/2 

2 経済犯罪に対する制度

(1) 加重処罰制度

 韓国においては,経済犯罪について不法利得等の価額に応じた加重処罰の制度が存在する。
 まず,賄賂罪,租税犯処罰法違反及び関税法違反については,1966年に制定された「特定犯罪加重処罰等に関する法律」(以下「特定犯罪加重処罰法」という。)により,賄賂の価額あるいはほ脱税額等に応じた加重処罰が可能とされている。賄賂罪については,賄賂の価額が5,000万ウォン以上であるときは,無期又は10年以上の有期懲役刑(なお,韓国における有期懲役刑の上限は,加重事由がない場合は,15年である。)に,1,000万ウォン以上5,000万ウォン未満であるときは,5年以上の有期懲役刑に処することとされている。
 また,関税以外の国税のほ脱については,ほ脱税額が年間5億ウォン以上であるときは,無期又は5年以上の懲役刑に,2億ウォン以上5億ウォン未満であるときは,3年以上の有期懲役刑に処することとされている。さらに,これらの場合においては,ほ脱税額の2倍以上5倍以下に相当する罰金刑を併科することとされている。
 関税については,[1]密輸出入した禁制品の価額が5,000万ウォン以上であるときは,無期又は7年以上の有期懲役刑に,1,000万ウォン以上5,000万ウォン未満であるときは,3年以上の有期懲役刑に処し,[2]その他の物品の密輸入については,物品原価が5億ウォン以上であるときは,無期又は5年以上の有期懲役刑に,2億ウォン以上5億ウォン未満であるときは,3年以上の有期懲役刑に,密輸出については,物品原価が2億ウォン以上であるときは,1年以上の有期懲役刑に,それぞれ処し,[3]ほ脱した関税の額が1億ウォン以上であるときは,無期又は5年以上の有期懲役刑に処することとされている。また,[1]の場合は,物品の価額の2倍以上10倍以下に相当する額,[2]の場合は,密輸入については,物品原価の2倍に相当する額,密輸出については,物品原価に相当する額,[3]の場合は,ほ脱税額の2倍以上10倍以下に相当する額の罰金刑を併科することとされている。なお,団体又は集団を構成し,又は常習としてこれらの関税法違反の罪を犯した者は,無期又は10年以上の有期懲役刑に処することとされている。
 VI-50表は,1994年以降の,賄賂罪,租税犯処罰法違反,関税法違反について,罪名別の第一審における科刑状況を示したものである。

VI-50表 賄賂罪租税犯処罰法違反及び関税法違反の第一審科刑状況

 一方,詐欺,恐喝,横領,背任,業務上横領及び業務上背任については,1983年に制定された「特定経済犯罪加重処罰等に関する法律」(以下「特定経済犯罪加重処罰法」という。)による加重処罰の対象になる。これらの犯罪によって取得された不法利得の価額が50億ウォン以上の場合は,無期又は5年以上の有期懲役刑に,5億ウォン以上50億ウォン未満の場合は,3年以上の有期懲役刑に処し,これらの場合,利得額以下に相当する罰金刑を併科できることとされている。
 なお,刑法においては,贈賄罪の客体(収賄罪の主体)は,公務員又は仲介人に限られているのに対し,特定経済犯罪加重処罰法は,これを,金融機関の役員又は従業員に拡張しており,これらの者に賄賂を約束し,又は供与した者も,特定経済犯罪加重処罰法によって処罰される。また,特定経済犯罪加重処罰法は,金融機関の役員又は従業員による,その地位を利用した私金融斡旋等の不正行為も処罰の対象としている。
 VI-51表は,1994年以降における,特定経済犯罪加重処罰法違反の検挙人員及び第一審における科刑状況を示したものである。

VI-51表 特定経済犯罪加重処罰法違反の検挙人員及び第一審科刑状況

(2) 金融実名取引制度

 韓国においては,経済犯罪への対応に関する制度として,金融実名取引制度が存在する。同制度の萌芽は1980年代前半から見られるが,1993年の「金融実名取引及び秘密保障に関する緊急財政経済命令」によって,実名でない金融資産の払戻し等が禁止されるなど,制度の骨格が強化された。現在の同制度は,1997年に,同命令が廃止されると同時に制定された「金融実名取引及び秘密保障に関する法律」に基づくものである。同制度は,実名(住民登録票上の名義,事業者登録証上の名義その他大統領令が定める名義)による金融取引を義務づける一方で,その秘密を保障することにより,金融取引の正常化を期することを目的とするものであり,実名であることが確認されていない,又は実名でないことが確認された金融資産については,その払戻し等が禁止され,これに違反した金融機関の役員又は職員は,500万ウォン以下の過料に処することとされている。また,実名でない金融資産の名義が実名に名義変更される場合には,その資産所有者に,当該金融資産の価額の50%に当たる額の課徴金を賦課すること,実名でない金融資産について得られた利子・配当収入に対する所得税率を90%とすることなども規定されている。なお,金融取引の秘密を侵した者は,5年以下の懲役刑又は3,000万ウォン以下の罰金刑に処することとされている。
 VI-52表は,1994年以降における,同法違反事件の第一審における科刑状況を示したものである。

VI-52表 「金融実名取引及び秘密保障に関する法律」違反の第一審科刑状況