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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第5章/第4節/1 

第4節 加害者に対する感情及び社会復帰に対する意見等

1 加害者に対する感情等

 (1)加害者に対する感情
 加害者に対する被害者等の感情については,V-11図のとおり,「憎い」と1かかわりたくない」が多い。さらに,明らかに強い憎しみの感情を示す「仕返しをしたい」と「憎い」を合わせると40.4%,また,加害者と距離を置こうとする「恐怖感」と「かかわりたくない」を合わせると37.2%となっている。一方,「相手の事情も分かるような気持ち」,「許そうと思っている」は,合計しても3.2%にすぎない。

V-11図 加害者に対する感情の内容別構成比

 (2)加害者と被害者との関係から見た加害者に対する感情
 加害者と被害者との関係によって,加害者に対する感情に差異があるかどうかを見たものがV-59表である。友人,仕事関係及び愛人において,「かかわりたくない」の比率が高いほかは,ばらつきが大きい。

V-59表 加害者に対する感情

V-60表 加害者に対する感情

 (3)調査対象者と被害者との関係から見た加害者に対する感情
 調査対象者と被害者との関係から,加害者に対する感情を見たものがV-60表である。いずれの関係においても,「かかわりたくない」と「憎い」の比率が高いが,「配偶者」,「子ども」では「恐怖感」,また,「父母」では「あきらめ」の比率も高くなっている。
 (4)謝罪・賠償成立の有無から見た加害者に対する感情
 V-61表は,謝罪の有無別に加害者に対する感情を見たものである。「憎い」,「恐怖感」の比率は,「謝罪なし」が「謝罪あり」を上回っている。一方,「かかわりたくない」,「許そうと思っている」の比率は,「謝罪あり」が「謝罪なし」よりも高くなっている。

V-61表 加害者に対する感情

 また,V-62表は,賠償成立の有無別に加害者に対する感情を見たものである。「仕返しをしたい」,「恐怖感」の比率が,「賠償あり」で高くなっているなど,賠償の成立が必ずしも加害者に対する感情の融和につながるものではないことがうかがわれる。

V-62表 加害者に対する感情

 (5)加害者側に対する感情の変化とその要因
 加害者側に対する気持ちに変化があるかを尋ねたところ,「変化なし」が63件(67.0%),「融和した」が23件(24.5%),「悪くなった」が7件(7.4%),「不明」が1件(1.1%)であった。
 次に,「融和した」及び「悪くなった」と答1たもの計30件に変化の要因を尋ねたところ,「時の経過とともに」が24件(80.0%),「裁判の結果が出たことによる」が1件(3.3%)で,「謝罪や賠償が成立した」及び「怪我や後遺症の状況による」と回答したものはいなかった。
 また,事件からの経過年数と加害者に対する感情との関連を見たものが,V-63表である。「仕返しをしたい」とするものは「5年未満」及び「15年以上20年未満」で多く,「憎い」とするものが120年以上」で3分の2を占めている。事件からの経過年数が15年以上の長期にわたるものは,対象事件の刑名の大半が無期懲役であるが,この種の事件においては,年数が経過しても,加害者に対する感情が融和しないケースが少なくないことがうかがわれる。

V-63表 加害者に対する感情