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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第4章/第5節 

第5節 まとめ

 財産犯全体では,被害全額が回復されている事案が約66%に上っており,被害が全く回復されていない事案は約23%である。被害全額が回復されている事案の占める比率は,被害額1万円以下の窃盗及び横領で80%を超えている上,被害額が高額の事案でもかなり高く,被害額500万円から1,000万円の事案でもその比率が34%に上っているなど,刑事手続の過程で被害回復が図られていることが認められる。一方,被害額及び被害回復と処分内容の関係を見ると,全体として,被害額が多額になるに従い,また,被害回復率が低いほど,起訴猶予の比率が低くなり,実刑判決の比率が高くなるなどしているが,これは,被害額や被害回復状況が,訴追の要否や量刑に当たっての判断要素の一つとされていることをうかがわせるものである。
 生命犯・身体犯及び過失犯については,被害者死亡等結果が重大な事案では,示談未成立の場合は実刑の比率が高くなるなど,示談の成否が処分内容に影響を与えていることがうかがえる。また,性犯罪では,被害者との示談の成否が,量刑等に当たっての重要な要素となっていることがうかがわれる。
 このように,被害回復の程度や被害者との示談の成否は,訴追や量刑に当たっての判断要素となっていることがうかがえ,そのことが,刑事手続の過程において被害者に対する被害弁償や示談を行うことを促す一因になっているものと考えられる。