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 平成11年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/9 

9 捜査・裁判に対する要望等

 「あなたは,今回の経験を通じて,警察等の捜査,検察庁の捜査・訴追,裁判,弁護活動などに,何か希望することがありますか。ありましたら,自由に書いてください」との質問に対する回答(回答者合計669人)の内容を,分類して集計した結果は以下のとおりである。なお,記載内容は,広範にわたるため,以下の各項目ごとに分類・集計し,記載内容ごとに1件と計上している。

V-40表 償いに対する考え方(一番大切なこと)

 (1)情報提供
 捜査・裁判等に対する被害者等の要望等の中で,最も多いのは,刑事司法機関に対し,情報提供を求めるもの又は情報提供がないことへの不満を述べるものであり,その合計は289件であった。提供を希望する情報の内容については,判決結果が72件で最も多く,次いで,裁判の進行状況38件,捜査経過26件,事件の内容25件,裁判日時24件,加害者の釈放時期22件,加害者の現在の動向17件などとなっている。
 なお,情報提供に関し希望・不満を抱いた理由等としては,「毎日が不安な状態で過ごしているので,裁判やその後のことなど,できるだけ早く,細かな内容を教えてほしい」などとするもののほか,特に,加害者の釈放時期の情報提供を希望するものでは,加害者側からの報復や再度の加害への不安を訴えるものが多く,罪種別に見ると,恐喝・強制わいせつで多くなっている。
 (2)捜査に対する要望等
 捜査に対し希望・不満を述べるものの中で,最も多いものは,取調べ日時・回数や所要時間等への配慮に関するもので,42件あった。次いで,被害者の気持ち・立場への配慮に関するものが35件,迅速な捜査への希望や捜査の遅延への不満が33件などとなっているほか,被害者等の氏名等の公表や郵便物等による連絡方法に関し,プライバシーへの配慮を求めるものが10件あった。
 なお,被害者の気持ち・立場への配慮に関する希望・不満の内容は,広範にわたるが,捜査官の「威圧的な態度」,「命令的で無神経」,「横柄な態度」や「他人事のような対応」を指摘するもののほか,「被告人だか告発人だか分からないような質問を受けて,不安にかられた」などとするものがあった。このほか,罪種別に見ると,強姦及び強制わいせつの被害者によるものが,それぞれ12件,8件と最も多く,その内容も「女性の気持ちが全然分かっていない」,「もう少し優しく聞いてほしかった」,「雰囲気が硬く緊張し,事務的な感じだった」,「興味本位の質問をされたと感じた」などとするものが見られた。これに対し,被害者の気持ち・立場への配慮に感謝するものも,希望・不満とほぼ同数の34件あり,「被害者の立場に立ち親身になって相談に乗ってくれた」,「被害者の心情等を理解してもらい安心した」などとするものがあった。
 (3)刑事手続における被害者等の地位等について
 捜査・裁判を含めた刑事手続に対する希望・不満を述べるものの中で,刑事手続における被害者の地位等に関するものは,被疑者・被告人の人権が保障されているのに比べて,被害者の権利が保障されていないとして不満を訴えるものが29件,被害者が刑事手続から排除されていることへの不満や刑事手続への参加の希望を訴えるものが10件見られたほか,被告人に対し国選弁護人による弁護がなされるのに,被害者が自費で弁護士を依頼しなけれならないことへの不満を訴えるものも4件あった。
 (4)刑事手続における意見表明
 刑事手続において意見表明することを希望するものは19件あり,そのうち捜査段階におけるものが5件,裁判段階におけるものが11件である。表明したい内容については,被害者等の気持ちとするものが最も多く,9件である。
 なお,意見表明を求める理由等としては,「被害者に代わって意見を述べることが生きる支えとなっている」,「加害者が犯行を繰り返さないようにするためには,被害者の存在を認識させて,謝罪させることが必要である」などとするものがあった。
 (5)加害者側からの謝罪・賠償金の支払等について
 加害者側からの謝罪に関して不満を訴えるものは30件あり,その内容の多くは,謝罪がないことや謝罪に誠意が見られないことを訴えるものであり,「謝罪に来たのは裁判の時だけだった」などとするものがあった。
 また,賠償金の支払に関して不満を訴えるものは37件であり,その内容は,「加害者が何の資産も貯金もない場合は,泣き寝入りしなくてはいけないと聞き,どうしても納得できない」などとするもののほか,「加害者は,事故後保険会社にまかせきりで,何もしない」,「加害者側から詫びの言葉の一つもなく,いきなり弁護士から手形が送られてきた」などとするものがあった。
 (6)被害者等の保護の要望
 加害者側からの報復や再度の加害等からの保護を訴えるものは13件あり,罪種別に見ると,恐喝が5件で最も多い。また,加害者側からの報復や再度の加害への不安を訴えるものも27件あった。
 (7)その他の要望
 このほか,刑事司法機関に対する希望として,加害者に対して被害者との接触を禁じてほしいとするものが2件,加害者の真の更生のための措置を求めるものが8件あった。また,加害者に対する謝罪の指導等の措置を求めるものが5件,民事裁判以外で加害者側に賠償を命じる措置を求めるものが6件あった。
 さらに,被害者に対する支援の希望としては,示談交渉,民事裁判その他の民事関係の処理の困難性を訴え,支援を求めるものが19件あったほか,被害者に対する精神的なケアを訴えるものが11件,被害者等に対する一般的な支援体制の充実や支援機関の設置を訴えるものが11件あった。