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 平成11年版 犯罪白書  

はしがき

 犯罪の防止及び犯罪者の処遇と並んで犯罪被害者の保護・救済は,刑事政策の重要な課題であるが,従来,ややもすると前者に関心が払われ,後者については比較的関心が薄かったように思われる。しかし,被害者は,犯罪により直接痛みを受けたものであり,被害者を保護・救済することが刑事司法に対する国民の信頼確保の面からも重要であることはいうまでもない。
 近年,諸外国においては,様々な角度から犯罪被害者問題に対する取組が行われ,被害者施策も進展してきているところであり,我が国でも,近時,犯罪の被害者が犯罪による直接的な被害に加えて,精神面,生活面等で深刻な影響を受けていることについて国民の間に認識が深まり,被害者問題に対する関心が高まっている。
 これを受けて,刑事司法機関においても,検察庁で全国的に統一した被害者等通知制度が導入されるなど,犯罪被害者の保護・支援の観点から様々な取組が進められており,犯罪被害者問題は,現下の緊要な課題の一つであるといえる。
 法務総合研究所においては,昭和61年版犯罪白書において,「犯罪被害の原因と対策」を特集し,加害者から見た犯罪被害の原因と対策等を分析し,被害者及び被害感情を踏まえた上での犯罪者処遇の在り方を探るなどしたが,本白書では,近年の犯罪被害者の保護・支援をめぐる状況を受けて,平成10年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,特集として,「犯罪被害者と刑事司法」を取り上げ,犯罪被害の実態や刑事手続における被害者に対する配慮及び被害者救済の実情,諸外国における被害者施策等を概観し,必要な分析を加えることにより,効果的な犯罪被害者施策を講ずる上で役に立つ資料を提供しようと試みた。本白書が,被害者問題の検討や被害者施策の実施にいささかでも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書作成に当たり,最高裁判所事務総局,警察庁,外務省,厚生省その他の関係機関から多大の御協力をいただいたことに対して,改めて謝意を表する次第である。
平成11年11月
河 内 悠 紀 法務総合研究所長