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 昭和38年版 犯罪白書 第四編/第四章/一 

第四章 麻薬犯罪者の仮釈放と保護観察

一 仮釈放

 麻薬取締法違反による犯罪または非行をしたもので,仮出獄または仮退院の審理の対象となった者は,昭和三五年には仮出獄関係五五五件,仮退院関係二件,昭和三六年には仮出獄関係六一四件,仮退院関係一五件で,数としては比較的に少ない。特に仮退院関係は,年間一五件以下にとどまっているから,ここでは仮出獄関係のみについて述べることにする。
 麻薬取締法違反者の仮出獄の審理について,許可および棄却,不許可の決定状況をみると,昭和三五年には許可四七三に対して棄却,不許可六四(一一・九%),昭和三六年には許可四六八に対して棄却,不許可一一七(二〇・〇%)で,仮出獄審理全体の棄却,不許可率がそれぞれ七・二%と一〇・四%であるのに比べて,棄却,不許可の率が著しく高く,その更生の見通しのむずかしいことがうかがわれる。また,同じ年度について仮出獄取消件数をみると,昭和三五年が三件,昭和三六年が一一件で,きわめて少なく,その許可件数に対する取消件数の割合も〇・六%と二・四%で非常に低い。しかしこれが再犯の危険性の少ないということを意味するものでないことは,後述するところからも明らかである。
すなわち,法務総合研究所が昭和三五年中の麻薬取締法違反の受刑者で仮出獄を許されたもの四八三件について調査したところによると,その仮出獄期間は仮出獄を許されたもの全数三〇,二〇一件の仮出獄期間に比べてかなり短く,一月以内の仮出獄期間のものを例にとれば,全数では八,八二八件(二九・三%)であるのに対して,麻薬犯罪の場合は二三三件(四八・三%)となっている。またその再犯状況をみると,昭和三八年二月末までに再犯で有罪判決の確定をみたものが一八八件(三八・九%)に達しており,再犯の危険性はかなり高く,しかもその再犯中,麻薬取締法違反に関するものが全体の七割,一三二件にも達している。これらの状況からみると,前述の仮出獄取消率の低いことは,主として仮出獄期間が短いことによるものではないかと推測されるのである。
 もとより,麻薬犯罪者はそのすべてが更生困難であるということはできないが,前記の仮出獄期間と再犯率との関係や,後述の保護観察状況からみると,この種の犯罪者に対しては,矯正施設内における特別な処遇とともに,特に入念な環境調整の措置が必要であり,また仮出獄の審理に当たっては,本人の生活設計の実現可能性についての十分な見通しに基づいて,仮出獄期間をどの程度にするか,どのような場所を帰住地として指定するか,いかなる遵守事項を与えるか,いかなる補導援護をするか等につき,綿密な検討がなされるべきであり,この点に今後の研究課題があると思われる。