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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第五章/二/1 

二 少年に対する保護観察

1 保護観察処分少年

 家庭裁判所に送致された非行少年やぐ犯少年に対して,少年法第二四条第一項第一号の規定によって,保護観察所の保護観察に付する旨の決定がなされたときは,原則として少年が二〇才に達するまで,また二〇才に達するまで二年に満たない場合は二年間,保護観察が行なわれることとなる。
 保護観察所長は,保護観察処分少年については,言渡裁判所の意見を聞いて保護観察期間中遵守すべき特別遵守事項を定め,その事項ならびに一般遵守事項を本人に指示して理解させ,これらの事項を遵守することを誓約させなければならない。保護観察開始時におけるこれらの手続は,保護観察官が担当しているが,仮釈放におけるような環境調査調整の段階がないだけに,言渡機関である家庭裁判所から執行機関である保護観察所への,円滑なバトンタッチが特に必要である。すなわち,保護観察処分言渡し直後において,本人の保護観察所への出頭を確保し,将来における生活設計の相談,保護観察の趣旨の説明や説示等を行なっておくことは,保護観察を効果的に実施するために最も重要なことがらである。
 保護観察処分少年は,処分言渡し後すみやかに保護観察所へ出頭することとなっているが,その出頭状況をみるとIII-68表のとおりで,不出頭率は累年減少傾向にあるとはいえ,昭和三六年において,なお七%近くの不出頭者があり,特に正当な理由のない不出頭者が三・八%にも達している。これらの不出頭者の中には,当初から保護観察を受けて更生しようとする意欲に欠けているため,出頭しないという者もあろうが,その他に,家庭裁判所支部において処分をうけたため,出頭しなかったというものもあるのではないかと思われる。すなわち,最近五年間における家庭裁判所支部言渡人員およびその率は,III-69表に示すとおりで,言渡人員の三分の一に達しているが,既に述べたように,保護観察所は全国地方裁判所の所在地に四九か所設置されているのみで,家庭裁判所支部に対する保護観察所支部はないから,家庭裁判所支部で言い渡された少年は,保護観察所へ出頭するためには,かなり長い距離を旅行しなければならない場合があるからである。このような地理的,時間的あるいは経済的事情を考慮に入れれば,保護観察所支部または,いわゆる保護観察対象者出頭所の設置その他なんらかの適当な措置により,保護観察処分少年の出頭を確保することが,強く望まれるのである。

III-68表 保護観察処分少年の出頭状況(昭和32〜36年)

III-69表 保護観察処分少年の家庭裁判所本庁・支部別言渡人員(昭和32〜36年)

 次に,保護観察処分少年が保護観察から離脱して所在不明となっている状況をみると,III-70表のとおりで,所在不明率は累年増加しており,昭和三六年末には全体の七・二%にも達している。保護観察対象者は法定遵守事項によって,一定の住居に居住すべきことが義務づけられており,転居または長期の旅行のときには,必ず事前の許可を求めなければならないこととなっているのにもかかわらず,所在不明者はその履行を怠り,はなはだしいものは保護観察所へ出頭しないまま所在不明となっている。これら所在不明者は,ひんぱんに住居を変えたり,身分を秘したりしている場合が多いので,その発見はきわめで困難であって,その多くは所在不明中再犯におちいるのである。

III-70表 保護観察処分少年の所在不明人員とその率(昭和32〜36年)

 保護観察の結果を簡潔に知る方法として,保護観察の終了事由と終了時の状況をみると,III-71表に示すとおりである。これによると,成績良好による解除は,昭和三五年までは着実に累年増加してきたが,昭和三六年に至ってやや減少し一八・八%となっており,他面,家庭裁判所による保護処分取消は一四%前後を占めていてかなり高率である。このような保護観察の成績と関連して考えなければならないのは,対象者の非行前歴であるが,最近数年間の対象者の非行前歴をみると,新受人員の八%ないし一〇%の者が前歴をもっている。

III-71表 保護観察処分少年の保護観察終了事由別人員の率(昭和32〜36年)

 最後に,道交違反事件によって保護観察処分の言渡しをうけた少年についてふれよう。III-72表は,最近五年間の全国家庭裁判所における道交違反事件の保護観察言渡人員と,その総人員中に占める割合とを示したものであるが,道交違反事件によるものの数は,昭和三五年までは漸増しているが,昭和三六年においてはむしろ減少している。なお,保護統計によると,昭和三六年に道交違反事件をもっとも多く受理している保護観察所は名古屋で,ここだけで全件数の約半数を占めている。また東京,横浜などの大都市所在の保護観察所における受理件数は,きわめてわずかであるのに,金沢,高松,徳島,山形の各保護観察所の件数は多い。これは,大都市保護観察所では事務量が多いために,今のところまだ道交違反事件を受け入れる準備が整っていないことが,家庭裁判所で考慮されているせいでもあり,また,道交違反事件が保護観察になじむかどうかについての家庭裁判所の考え方が区々であるためでもあると思われ,今後検討を要するところである。

III-72表 家庭裁判所の保護観察処分言渡中,道交違反事件関係人員(昭和32〜36年)

 名古屋保護観察所の調査によると,道交違反事件による保護観察処分少年のはとんどが,不処分,試験観察,検察官送致処分を受けた経歴を持っており,その犯行内容は主として無免許運転,速度違反,停止徐行違反,乗車積載違反等である。年齢では,一六才ないし一八才の者が多く,大部分が雇い主のもとで生活している。また,資質においても他の保護観察対象者に比して特にすぐれているとは言えない。その保護観察の成績は,きわめて良好であるとされているが,それはこの種の事案に関しては,保護者,雇い主等の関係者の協力が得やすいということによるものなのか,あるいは保護観察という処分が特に有効であるということによるものなのか,いまだ明らかにされていない。