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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第三章/三 

三 医療衛生,給養

 少年院における医療衛生は,消極的には (1)収容の健康におよぼす悪影響の除去 (2)衣食住等最低健康生活基準の確保 (3)傷病の予防と治療,積極的には (4)在院者の更生の妨げとなる一切の傷病,欠陥の治療や除去につとめ,さらにすすんで (5)犯罪原因の医学的解明を,その使命としている。たとえば精神病質の非行少年に対する精神医学的診断,処遇,あるいは入墨の除去,奇形醜ぼうの整形手術,結核,性病等の根本的治療などである。
 各施設には,その大小に応じた診療機関が設けられており,そのほかに矯正医療体制の合理化を図るため,医療センターを設置しているが,その施設名等はIII-54表のとおりである。

III-54表 少年関係医療センター(昭和38.4.1現在)

 なお医務関係職員は,昭和:三八年一月現在,医師六九(精神科医八),薬剤師七,レントゲン技師三,栄養士一七,衛生検査技師二,看護婦(人)の資格を有する者六三等である。
 患者については,昭和三七年一〇月末現在,休養患者(一般の入院患者にあたる)二五三,非休養患者(一般の通院患者にあたる)二,〇八九である。病名別にみると,精神病,精神々経症および人格異常の者が比較的多く,神経系,感覚器の疾患,消化器系の疾患,伝染病,寄生虫病等がこれについでいる。
 矯正施設内の伝染病の発生は,ただに収容者への伝染の危険にとどまらず,地域社会の保健に重大な脅威を与えるので,上下水,し尿処理設備の改善,衛生数育,予防接種の励行のほか,直接最も効果ある検便による病原菌保有者の摘発を重視し,大施設に併置されている防疫センターにおいて周辺施設の検便を行なっている。上水道の滅菌装置未設置庁の整備については,三七年度予算において全施設の整備が認められた。
 収容少年には,多少とも,精神状態のかたより,異常を有する者が多いが,精神病質ないし,その傾向の強い者も一般社会集団に比して高い比率を示しており,自傷,暴行など病的な反応を示す場合が少なくない。これらの収容者に対しては,可能なかぎり専門の施設に収容し,治療に努めるとともに,一般施設では外部専門家の協力や指導を得て治療にあたっている。
 精神障害者のうち,最も多数を占めている精神薄弱者の比率は,一般社会におけるよりはるかに高く,少年院においては,一三%が精神薄弱者と診断されている。これらの者に対する対策としては,可能なかぎり専門の矯正施設に収容の上,治療教育手段を施しているが,いまだ十分とはいえないので,専門施設の増置,専門職員の配置,薬物投与等,この対策に積極的な手段を講じている。三七年度は,脳発育促進剤の購入予算が認められ,関東医療少年院等において,これが施用と,その効果の測定を学術的に検討している。
 収容少年の給養については,主としてその給食と衣服が問題になるが,収容少年の一日あたり給与カロリーは三,〇〇〇カロリー(主食二,四〇〇カロリー,副食六〇〇カロリー)であって,カロリーとしての不足はない。しかし副食費が少ないため,動物性たんぱく質および脂肪が不足していることが目だつ。これが対策として,昭和三七年度予算においては,従来にない大幅な増額(ひとり一日三円五〇銭)が認められ,ひとり一日あたり二八円となった。その結果,動物性たんぱく質の給与量が若干ふえ,その最低必要量を越えることができたが,昭和三八年度においてさらに,ひとり一日一円六〇銭の増額が認められ,現在では二九円六〇銭となっている。
 なお収容者には,一定の衣服および寝具等が貸与されており,また,紀律衛生上害のないものにかぎり,自弁品の使用が許されているが,しかし収容者の衣服,寝具は,近年一般社会における生活水準の向上に伴い,その生地,型式等の改善が考えられている。