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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第四章 

第四章 婦人補導院における処遇

 婦人補導院は,昭和三三年三月,売春防止法の一部改正にともない,全国三か所(東京,大阪,福岡)に設置された国の施設である。その目的は,売春防止法第五条の,公然勧誘等の罪を犯した満二十才以上の女子に対し,裁判所が補導処分の言渡しをした者を収容して,これを更生させるために,必要な補導を行なうことにある(婦人補導院法第一条)。したがって,補導処分は,刑罰ではなく,一種の保安処分であるが,制度の性質上,社会防衛のためというよりは,むしろ,本人の保護,矯正のためのものである。
 昭和三三年五月,収容を開始して以来,昭和三七年にいたるまでの新入院者の状況をみると,II-92表に示すように,昭和三五年の四〇八人をピークとして,漸次減少傾向を示している。なお,昭和三七年中における新入院者数を,補導処分言渡地方裁判所別にみると,II-93表のとおりであり,東京が最も多く,大阪,福岡,神戸,横浜がこれに次いでいる。本表記載以外の地方裁判所では,昭和三七年中において,補導処分の言渡しをしていない。

II-92表 婦人補導院入出院状況および年末収容人員累年比較(昭和33〜37年)

II-93表 婦人補導院入院者の言渡地方裁判所別人員(昭和37年1〜12月)

 昭和三七年中の新入院者について調査したところによると,II-94表(1)ないし(5)に示すように,再入以上の者が四〇・八%(昭和三六年は三三・六%)であり,再入院者の増加が目だっている。年齢の点では,二五才以上二九才までの者が三〇・二%で最も多く,知能指数からみると,七九以下の者が七一・三%を占めており,精神状況から見た場合,正常または準正常の者は五三・八%にすぎず,他の者はなんらかの精神的欠陥をもっているという状況である。身体的な面においては,性病にかかっていた者は三二・三%,その他の疾患にかかっていた者が二二・九%であった。

II-94表 婿人補導院入院者調べ(昭和37年)

 最近,社会問題として大きく浮かび上がってきている麻薬との関連については,昭和三七年一二月末日現在の在院者一五九人について,その使用経験の有無を調査したところによると,一一・三%の者が使用経験者であり,受刑者のそれに比べて,三倍ぐらいの高い比率を示している(昭和三七年一〇月一日現在の全国の受刑者のうち,使用経験者は三・九%であった)。
 以上の新入院者の実情のうち,特に注目すべきことは,再入院者の占める比率が,年をおうごとに増加の傾向をたどっていることである。収容開始の翌年から昭和三七年にいたる四か年の推移をみると,一五・五%二五・九%,三三・六%,四〇・八%といった状況であるが,この再入院者増加の傾向に対する対策については,婦人補導院の処遇自体にとっても当面の重要な課題ではあるが,他面,その犯罪の性質からみて,出院後の補導,援護にこそ,よりいっそうの努力が傾けられなければならないものと思われる。すなわち,再入院者について,前回の出院後の状況をみると,その約半数の者が,出院後一か月も経過しないうちに売春行為を始めており,一方,再入院者の大半は,多かれ少なかれ,婦人相談員や婦人相談所,あるいは保護観察所等の補導,援護を必要とする状況にありながら,現実には,これらの機関に全く足を運んでいないという実情である。ここに出院後の補導,援護の重要性が叫ばれるゆえんがあると考えられる。
 婦人補導院における処遇の中心は,婦人補導院法の定めるところにより,生活指導,職業補導,および更生の妨げとなる心身の障害に対する医療の三つにおかれている。これらの処遇は,単に婦人補導院職員によるだけでなく,地域社会の強力な援助を得て実施されており,かつ,その処遇方法は,あくまで在院者各個人の特性に応じた分類処遇によって行なわれている。
 生活指導については,道徳的訓育と情操の陶やを目標として実施されており,職業補導は,家事,園芸,洋裁,和裁,手芸等が中心となり,これと並行して,施設の自営用務である炊事,清掃および洗濯などにもつかせているが,これらの職業補導に対する賞与金は,ひとりあたり平均月額五〇〇円という実情である。なお,施設外の事業所等に通わせる,いわゆる院外委嘱職業補導の制度もとられており,昭和三七年中の院外委嘱職業補導人員(実人員)は一六六人であった。このほか,課業終了後の余暇時間には,自己の収支において行なう自己労作も認められている。医療については,当然に,性病の治療に重点がおかれているが,その治癒率は六六・一%であり,一般に健康状態も,規律正しい生活と合理的な給養管理によって,出院時には大部分の者が健康を向上して社会へ巣立っている。昭和三七年中の出院者三五二人の体重の増減状況をみると,入院時のそれより増加している者が五八・八%,増減のない者は九・一%であった。
 昭和三七年中の出院者のうち,帰住先を親族以外に求めなければならなかった者が全体の三九%あった。仮退院を許されたものは,わずかに一一・六%にすぎず,他の者は補導期間六か月の満了による退院であるが,この退院は,補導の効果の有無にかかわらないものである。出院者がこのような状況にあるということは,さきに述べた出院後の補導,援護の重要性を,さらに裏書きするものといわねばならない。