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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/6 

6 刑務作業および職業訓練

 受刑者のうち懲役刑受刑者は,定役すなわち刑務作業に従事することが強制され,罰金刑に処せられ,罰金が支払われず,労役場に留置されたものも,作業に従事しなければならない。また,禁錮刑,拘留刑の受刑者は,未決拘禁者や死刑確定者とともに,請願によって作業に従事することができることになっている。これらの強制的な作業および請願による作業をまとめて刑務作業とよぶならば,昭和三七年一二月末現在における刑務作業の就業状況は,II-81表に示すように,懲役受刑者の九〇・一%,禁錮受刑者の九〇・八%,拘留受刑者の四〇・〇%,労役場留置者の七八・四%となっている。懲役受刑者に不就業者があるのは,疾病,懲罰執行,移送などの事由によるものである。禁錮刑受刑者の九〇・八%(昭和三六年は八八%)が請願就業している現実は,刑罰として懲役刑と禁錮刑とを分ける実益を失っているものともみることができよう。

II-81表 刑務作業の就業人員と就業率等(昭和37年末現在)

 刑務作業は,受刑者の社会復帰のための職業訓練,すなわち勤労意欲のかん養,あるいは職業についての技能の付与ないし向上を図るとともに,他面,その生産性を高め,収容費の償却につとめ,直接国家経済に寄与するという目的をもっている。
 したがって,刑務作業の種類は,可能なかぎり生産的なものでなければならないが,予算,設備,受刑者の心身の状況,職員数等の制約によって,全面的に有用な作業を実施できない状況にある。

(一) 刑務作業の業態・業種

 刑務作業の業態は,次の五種に分けることができる。
(1) 物品製作 作業の実施に必要な費用,物品等のすべてを国が負担して行なう作業。
(2) 加工修繕 作業の実施に必要な費用は,国と契約者の双方が負担し,機械器具は,国か契約者のいずれが負担してもよく,材料その他の物品は,契約者が大部分を提供し,国は補足的に一部分を負担して行なう作業。
(3) 労務提供 作業実施に必要な一切の費用,物品等のすべてを契約者が負担して行なう作業。
(4) 経理 炊事,清掃,看護など刑務所の自営に必要な用務につくもの。
(5) 営繕 刑務所自体のために行なう直営工事,あるいは補修工事などに必要な用務につくもの。
 これらの業態別年間就業延べ人員は,昭和三六年では,一二,四五六,〇二二人(前年より六二〇,〇九〇人減)で,その内訳は,労務提供がもっとも多く(五〇・三%),以下,加工修繕(二六・一%)物品製作(二三・六%)の順であるが,前年に比して,加工修繕の就業人員の減少(七・八%減)が目だっている。(II-82表参照)

II-82表 刑務作業支出額・収入額・調定額および業態別生産額ならびに就業延べ人員(昭和35,36年)

 次に,業態別と業種との関係を,昭和三六年における就業人員の面からみると,労務提供では,紙細工(封筒,紙器などの製作)がもっとも多く(二四%),金属(プレスなどの製作,一八・一%),メリヤス(手袋・靴下あみ,一二・四%),紡績(一〇・五%)など,加工修繕では,洋裁(二六・二%),紙細工(二〇%),金属(一四%),紡績(九・八%),木工(八・六%),物品製作では,木工(二八・五%),印刷(二二・一%),農耕・牧畜(一二・九%),革工(製靴,製鞄など,一〇%)などがおもなものとなっている。
 しかし,生産額の面からみると,昭和三六年においては,業態別では,もっとも就業人員の少ない物品製作が,総額の五七・八%(二〇億円)をあげ,以下労務提供(二三・一%,八億円),加工修繕(一九・一%,七億円)の順である。次に,業種別にみると,物品製作では,木工(七億円),印刷(四億円),金属,革工(各二億円),農耕・牧畜,製紙などが,それぞれ年間一億円をこえる収入をあげ,労務提供では,金属(一・九億円),構外作業(一・五億円),紙細工(一・二億円)など,また,加工修繕では,洋裁(一・八億円),金属(一・六億円)がおもな生産をあげている業種となっている。
 これらの業種のうち,昭和三五年に比し,増収をもたらしたものは,金属(一・四億円)をはじめ,木工,洋裁,印刷,紙細工,構外作業など(いずれも三千五百万円以上)であるが,紡績,編物・袋物,食品加工,わら工なとは,いずれも減少している。

(二) 刑務作業による収入

 刑務作業による収入は,昭和三六年には,総額約三二億七千万円(昭和三五年に比較し約四億七千万円の増収)に達し,受刑者の直接収容に要する費用,すなわち刑務所収容費を一四%も上回った。また,この収入は,作業のための直接の予算額に対しては二・四倍(前年は二・二倍)にあたり,刑務所全体の費用の二六・八%(前年は二三・五%)にあたっている。
 刑務作業の一日平均の就業人員は,昭和三六年には,前年より三,四三〇人少ない五二,六三一人であるにもかかわらず,前述のように,その収入額において一一・五%以上の増収をみたことは,前年にひきつづいて,一般社会の労働力の不足を反映して,刑務所の労働力を積極的に利用したこと,および,経済界の一般情勢を反映して,労務提供作業の契約賃金が上昇したことなどによるものと考えられる。
 受刑者に対して与えられる作業賞与金は,作業の種類,就業条件,作業成績,行状等を考慮し,一定の標準のもとに計算支給する恩恵的なものとされている関係から,昭和三六年の日額ひとりあたりの額は,二三六・七円(前年より二八円増)にとどまっている。そのため,出所時の給与額も,出所者の五分の三までが,二,〇〇〇円以下(五九・二%)で,釈放時の更生資金としては役だっていない。
 この実情に対処して,予算的にも,作業賞与金の増額に努力し,昭和三八年度予算では,受刑者一日ひとりあたり平均一六円八八銭が認められ,従来の支給実績額である昭和三六年度の九円二八銭,同三七年度の一二円〇九銭をかなり上回ることとなった。

(三) 構外作業

 受刑者の社会生活に対する適応性を与える方法の一つとして,構外作業場があげられる。その内容は,ほとんど公共事業的性格をもっており,森林開発,電源開発,築堤工事などの国土開発,治山治水工事に重点がおかれている。
 昭和三六年末現在の構外作業就業人員は,一,三九七人(昭和三五年末現在より一三%増)で,年間約一億五千万円(昭和三五年より三五%増)の生産をあげている。

(四) 職業訓練

 受刑者には,技能を習得させるため,職業訓練を実施しているが,昭和三六年度には,木工,活版印刷,製靴など三五種目について,一,五五三人が訓練を終了した。また,このような職業訓練によって,在所中に,理容師,美容師,海技従事者,無線従事者,自動車運転者などの資格または免許を取得したものは,昭和三六年には二,〇一三人(昭和三五年には二,〇四五人)におよんでいる。

(五) 自己労作

 懲役受刑者は,定役としての作業のほか,行刑成績のすぐれた一,二級のものに限って,作業時間終了後一日二時間の範囲内で,紙細工,編物(刺しゅうを含む),メリヤスの三種について自己労作することが許されており,そのいっさいの収益金は,本人の収入として,更生資金の一部に組み入れることになっている。昭和三七年三月一日現在では,全国で六五三人が従事し,ひとり一月あたり平均一,四五一円の収入を得ている。