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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第一章/一 

第二編 犯罪の捜査,検察,裁判および犯罪者に対する処遇

第一章 犯罪の捜査および検察の概況

一 序説

 捜査の中心課題は,犯罪が行なわれたことと犯人との結びつきと証明するに足る証拠資料を収集することにあるが,犯人に対する検察官の処分,量刑,および処遇の適切を期する上からは,さらに広義の情状についても,環境と犯人の素質との両面にわたって,広範囲に資料を収集するよう努力されなければならない。すなわち,今日の捜査活動は,犯罪事実の証明という点に主力を注ぎつつも,常に,あわせてその情状の点について,犯人の経歴,犯罪の動機,犯罪の手段,態様,社会的影響などの諸点についても資料の収集を行ない,さらに犯人の環境および素質に関する諸因子の刑事学的解明をも目ざして,その努力が進められているといってよいであろう。しかし,現在の刑事学自身が,科学として未成熟の段階にあることと,捜査活動に対する法律上の制約,とくに時間的制約が資料の収集をおもうにまかせない結果,右の刑事学的解明には,まだ十分に手が届いていない実情にあることは認めざるをえず,今後の研究と努力に期待しなければならない。
 現行法上の捜査機関は,警察官たる一般司法警察職員と,森林,鉄道その他特別の事項について司法警察職員としてその職務を行なういわゆる特別司法警察職員,および検察官,検察事務官となっており,検察事務官は検察官の指揮を受けて捜査に従事するほか,司法警察職員は原則的には独立して捜査活動に従事している。
 司法警察職員が捜査をしたときは,特別の定めがある場合を除いて,すみやかに書類および証拠物とともに,事件を検察官に送致しなければならないことになっている(刑事訴訟法第二四六条)。したがって,原則的には,あらゆる事件が検察官の手を経由することになる訳であって,このことは,検察官に公訴権を専属せしめた国家訴追主義(刑訴第二四七条),および検察官に広範な不起訴処分権を認めた起訴便宜主義(刑訴第二四八条)と密接に結びついているのである。
 以上のような事情と,既に第一編においてある程度,司法警察職員の捜査にふれている関係から,本章においては,もっぱら検察の段階における捜査と検察の概況を,主として統計の面からながめることとしたい。