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 平成 9年版 犯罪白書 第3編/第2章/第2節/1 

第2節 矯正及び更生保護

1 成人矯正

(1) 概  説
 我が国の成人矯正の基本法である監獄法は,明治41年に施行された後,今日に至るまで実質的な改正を見ていない。しかしながら,第二次世界大戦終結後,日本国憲法の制定をはじめとする基本的法制度の変革,社会・経済情勢の変化,国際的な刑事政策思想の進展等に伴う運用上の変化を遂げてきた。
 行刑施設は,平成8年末現在,全国に刑務所59庁,少年刑務所8庁,拘置所7庁のほか,刑務所,少年刑務所及び拘置所には支所(刑務支所及び拘置支所)が合計118庁設置されており,収容定員は6万4,770人(うち,既決拘禁者は4万8,577人),収容人員は4万9,414人(うち,既決拘禁者は4万515人)である。収容率(収容定員に対する収容人員の比率)は,全体で76.3%(既決拘禁者で83.4%)となっている。
(2) 組織及び処遇の変遷
 戦後の行刑組織面における変革としては,監獄法にいう「監獄」について,昭和23年の刑務所及び拘置所令によって,それまでの監獄官制を廃止し,個々の監獄の名称として用いられていた刑務所,少年刑務所及び拘置所との名称を監獄の種別の総称としても用いることとし,27年の組織再編を経て,平成5年には,処遇効果を高めるための処遇体制の確立を図るとともに,職員の職務評価を高めることをねらいとして専門官制が導入され,また,近年の外国人被収容者の増加等に対応するため,7年以降,府中及び大阪の両刑務所に,それぞれ国際対策室が設けられている。また,売春防止法による補導処分に付された成人女子を収容する矯正施設として,昭和33年には,婦人補導院が設置されている。
 戦後の行刑処遇の推移について概観すると,昭和21年には行刑処遇の基本原理に関する通達が発出され,戦後の行刑運営の基礎を築くことに力が注がれた。22年の日本国憲法施行後,同憲法の趣旨に適合するように,民間の宗教家による教誨師制度が発足し,懲罰の一つとして定められている重屏禁が事実上廃止された。23年には,被告人の弁護人との接見に刑務官の立会を許さないこととし,受刑者の改善の難易,犯罪性,刑期,健康,年齢,性別等の細部にわたり受刑者の分類基準を規定するなど,科学的な分類が制度化されている。
 戦後の社会的混乱が次第に収まりつつあった昭和28年以降は,行刑処遇は飛躍的に発展を遂げ,行刑の近代化(人道化,科学化,社会化)が促進され,被収容者の処遇水準の向上,処遇内容の改善が進められることとなる。同年には,部外有識者である篤志面接委員による面接指導が導入され,30年代後半には交通禁錮受刑者の急増に伴い開放的処遇が開始された。32年には分類処遇の推進と拡充を図るための分類センターが発足し,41年には人権上の配慮等に基づいた監獄法施行規則の大幅な改正が行われ,47年には,見直しのなされた分類処遇制度が全国的に統一して実施されることとなった。さらに近年は,被収容者に対する食糧給与基準の見直し,日用品等の使用や自費購入の範囲の拡大等の措置が図られるなど,被収容者の生活水準は飛躍的に向上している。刑務作業の実施に関しては,58年から財団法人矯正協会刑務作業協力事業部(CAPIC)による原材料の提供・製品の販売という新しい方式が導入された。
(3) 新受刑者数の推移
 次に,新受刑者数の推移を見ると,懲役刑受刑者は,昭和23年に約6万9,700人のピークを迎えた後,長期的に減少傾向を示し,平成4年には戦後最低の約2万600人を記録したが,5年以降漸増傾向を見せ,8年には約2万2,200人となった。禁錮刑受刑者は,戦後のくるま社会を迎え,交通関係業過を主として昭和30年以降増加に転じ,46年には約3,000人と最高を記録したが,その後ほぼ一貫して減少傾向を示しており,平成4年以降は100人台で推移している。
 行刑施設全体の一日平均収容人員の推移を見ると,昭和20年代前半に急増して25年には約10万3,200人(うち,受刑者約8万5,300人)となったものの,その後は多少の増減はあるものの長期的には減少し,平成4年に約4万4,900人と戦後最低を記録したが,その後漸増傾向を見せた。8年には4万8,395人となり,このうち,受刑者の一日平均収容人員は3万9,522人(全収容人員の81.7%)で,未決拘禁者は8,638人(被告人8,503人,被疑者135人)となっている。
(4) 新受刑者の特性
 懲役刑新受刑者の刑期別構成比では,昭和60年まで40%台から50%台を占めていた刑期1年以下の受刑者の占める比率が,近年は低下し,平成5年以降は20%台で推移している。
 昭和33年以降平成8年までの新受刑者の入所度数別構成比の推移を見ると,初度の者(初めて受刑した者)は,昭和46年に約49%と最高を記録した後,59年までの間は40%台で,60年以降は30%台後半で,それぞれ推移したが,平成8年には約42%となっている。一方,6度以上の者は,昭和33年以降,おおむね緩やかな上昇傾向にあり,平成4年以降は19%前後で推移している。
(5) 各種受刑者
 次に,各種受刑者に対する処遇の状況を見るごととする。
ア 若年又は高齢の受刑者
 新受刑者中に占める20歳代の者の比率は,戦後急激に上昇して昭和26年には約58%となったが,27年以降は低下傾向を示し,54年以降は20%台で推移している。一方,40歳代以上の年齢層は,44年以降顕著な増加を示しており,特に,58年までは2%未満であった60歳代以上の者が平成5年には5%台に達し,8年には約6%になっている。
イ 暴力団関係者
 受刑者中の暴力団関係者の占める比率は,昭和50年以降平成8年までの各年末現在20%台から30%台前半で推移している。暴力団関係者の処遇に当たっては,組織からの離脱指導を積極的に行うとともに,受刑者間の人間関係をよく把握しつつ厳正な秩序と規律の維持に注意を払い,地元暴力団の分散収容を行うなど保安及び警備を厳重にしている。また,生活指導を強化し,勤労の習慣を身につけさせるよう指導している。
ウ 覚せい剤事犯受刑者
 覚せい剤取締法違反による新受刑者の新受刑者総数中に占める比率は,昭和30年に約6%を占め,その後顕著に低下したものの,44年から上昇に転じ,61年には約28%を占めるに至った。その後は,おおむね20%台後半で推移している。平成8年末の覚せい剤事犯受刑者は,受刑者総数の約29%(約1万1,600人)を占め,特に女子においては女子受刑者総数の約48%(870人)となっている。覚せい剤事犯受刑者に対しては,覚せい剤とのかかわりの程度,犯罪傾向の進度,年齢等に応じて,覚せい剤濫用防止指導がなされている。
エ 女子受刑者
 女子新受刑者数は,昭和23年には最多の約2,700人を記録したが,その後減少に転じ,49年には戦後最少の467人となった。50年代はおおむね増加傾向を示し,60年に入ってからは漸減傾向にあったが,平成3年及び4年の914人を底にして5年以降漸増傾向を示しており,8年は1,071人となっている。
オ 外国人受刑者
 昭和62年以降,「日本人と異なる処遇を必要とする外国人」と判定された「F級」の新受刑者は,増加傾向を示しており,62年には107人であったものが平成7年には347人となっている。8年は279人(男子257人,女子22人)である。
 平成8年のF級新受刑者の主要罪名別人員は,窃盗が56人(20.1%)で最も多く,次いで,覚せい剤取締法違反42人(15.1%),麻薬取締法違反28人(10.0%),強盗23人(8.2%),入管法違反20人(7.2%),殺人19人(6.8%)の順となっている。