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 平成 9年版 犯罪白書 第2編/第7章/第2節/3 

3 少年刑務所

(1) 概  説
 少年法では,懲役又は禁錮の刑の言渡しを受けた少年に対しては,特に設けた監獄又は監獄内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行するとの定めがなされており,この規定の適用を受ける裁判時20歳未満の受刑者を少年受刑者という。少年受刑者については,成人受刑者からの悪影響防止及び教育・訓練の徹底を図るために,少年刑務所又は刑務所内の特に区画した場所でその刑が執行されるが,その者が20歳に達した後でも26歳に達するまでは,引き続き同一場所において執行を継続することができるとされている。
 罪を犯した幼年の者を成人受刑者とは区別して処遇することは明治時代から行われ,明治41年に施行された監獄法においても,2月以上の懲役に処せられた18歳未満の者は,特に設けた監獄又は監獄内において特に分界を設けた場所に拘禁すると定め,大正11年には,(旧)少年法の制定を契機に,「特に設けた監獄」として,小田原,川越など7少年刑務所が設置された。その後,新設,廃止等を経て,少年刑務所は,平成9年3月31日現在,川越,水戸,松本,姫路,奈良,佐賀,盛岡及び函館の計8庁である。
 少年刑務所においては,少年受刑者(収容分類級J級)のほかに26歳未満の青年受刑者(同Y級)をも収容しており,後述するように少年受刑者数が少ないため,受刑者の多くは青年受刑者となっている。
(2) 少年受刑者の収容状況の推移
 II-76図は,昭和21年以降の少年新受刑者数の推移を見たものである。21年には4,086人であった少年新受刑者は急激に減少したが,26年には,現行少年法の適用年齢が20歳未満に引き上げられたことにより一時3,000人を超えた。その後保護処分として少年院に収容される者が多くなるにつれ,27年には1,000人,44年には500人をそれぞれ割り,63年以降は100人を下回り,平成3年から7年までは50人台で推移した。
 なお,女子の少年新受刑者数は,昭和23年に186人と最高値を示したものの,その後減少し,該当者のいない年もあるなど,43年以降一けた台で推移している。

II-76図 少年新受刑者の推移(昭和21年〜平成8年)

 平成8年の少年新受刑者は,41人(前年56人)で,うち女子は1人(同2人)である。そのうち入所時20歳未満の者が35人(同44人)である。また,8年12月31日現在の20歳未満の受刑者は24人(同22人)である。
(3) 少年受刑者の特徴
 少年新受刑者の罪名別構成比の推移を見ると,昭和20年代は窃盗が圧倒的に多く,70%台から50%台への低下傾向を示しつつも第一位を保っていたが,30年代は40%台,40年代半ばまでは20%台後半と低下し続け,46年以降は業過の構成比が窃盗の構成比よりも高くなっている。
 II-77図は,こうした動きの中で,昭和51年以降5年ごとの少年新受刑者の罪名別構成比を見たものである。

II-77図 少年新受刑者の罪名別構成比(昭和51年〜平成8年)

 平成8年の少年新受刑者の罪名別人員は,刑法犯が38人,特別法犯が3人である。そのうち,強盗が10人で最も多く,以下,傷害及び業過がそれぞれ9人,強姦が3人,放火,殺人及び窃盗がそれぞれ2人となっている。
 なお,刑名別人員は,懲役が39人(前年52人),禁錮が2人(同4人)となっており,全員が不定期刑受刑者である。
 II-78図は,昭和51年から5年ごとに少年新受刑者の刑期別構成比を見たものである。
 刑期別構成比は,2年以下の範囲内の比較的刑期の短いものの比率が50%を超えていた年次もあったが,平成8年にはこれが25%を下回り,5年を超えるものの比率が上昇している。

II-78図 少年新受刑者の刑期別構成比(昭和51年〜平成8年)

(4) 少年刑務所の処遇
 前述のように,少年刑務所には少年受刑者のほかに26歳未満の青年受刑者も収容しており,これら青少年受刑者の特性を考慮した処遇が行われている。すなわち,学習が可能なように個室を準備したり,職業訓練への編入を考慮したり,クラブ活動参加を勧めたりするなどの配慮がなされている。
 特に,第二次世界大戦終結後から現在に至る少年刑務所における処遇の特色は,教科教育,職業訓練及び生活指導に見ることができる。
ア 教科教育
 教科教育は,義務教育未修了者に対する教科教育,低学力者に対する補習教育,高等学校教育を希望する者に対する高校通信制教育等を中心としている。また,昭和30年から,松本少年刑務所に地元の公立中学校の分校を開設し,義務教育未修了者のうち適格者を集めて教育を行い,さらに,50年から奈良少年刑務所,51年から松本及び盛岡の各少年刑務所において,青少年受刑者のうち適格者を集めて,それぞれ地元の公立高校の通信制課程に入学させるなど教科教育の拡充が図られた。このほか,希望者には,社会通信教育及び学校通信教育も受講させている。
 なお,教科教育では,平成9年3月,松本少年刑務所の地元中学校の分校において,11人の修了者に対し,本校の中学校長から卒業証書が授与されたほか,松本,奈良及び盛岡の各少年刑務所で,高校の通信制課程を修了した合計7人に卒業証書が授与された。
イ 職業訓練
 職業訓練は,すでに昭和5年から少年受刑者にも実施されていたが,20年代後半から,少年刑務所を中心として,理容,自動車整備等の訓練種目が実施されるようになり,その後,徐々に施設整備がなされ,溶接,電気工事,ボイラー運転等も訓練種目に加えられた。
 昭和55年には,初めて26歳未満の者に職業訓練生となる機会が与えられ,総合訓練施設において所定の訓練を修了すると,労働省職業能力開発局長名の履修証明書が発行されている。また,これまで,多くの青少年受刑者が公認の資格・免許を取得し,又は職業技能を習得して,出所後の自立更生に役立てている。
ウ 生活指導
 生活指導は,戦後活発となり,健全な社会生活を送るために必要な知識及び生活態度を身に付けさせることを目的に,カウンセリング,講話その他の方法を用いて,日常の各場面で実施している。
 さらに,少年刑務所では,青少年の特性を十分に考慮しながら,刑執行開始時の指導及び訓練,釈放前の指導及び援助,進路指導,読書指導,集会,施設外教育,体育活動等を計画的に実施している。