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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/9 

9 財政経済関係法令

(1) 証券取引関係
 我が国の証券取引を規律する法律として,終戦時には,日本証券取引所法(昭和18年法律第44号),有価証券業取締法(昭和13年法律第32号),有価証券引受業法(昭和13年法律第54号),有価証券割賦販売業法(大正7年法律第29号)等があったが,昭和23年4月,これらの法律を統合し,アメリカ法制を大幅に取り入れた証券取引法(昭和23年法律第25号)が公布(同年5月から11月にかけて施行)された。同法においては,[1]投資家に対して正しい情報が提供されるための「開示」に違反した行為(虚偽の記載をした有価証券に関する報告書の提出等),[2]証券取引にかかわる機関に対する規制に違反した行為(制定の当初においては,証券業の無登録営業,金融機関の証券業務の営業等。),[3]不公正な取引の規制に違反した行為(風説の流布等)等に関する処罰規定が設けられた。その後,同法は,平成8年末までの間に,39回にわたる改正がなされているが,そのうち,刑事罰則に係る主要なものは以下のとおりである。
 昭和63年の改正(同年8月から平成元年4月にかけて施行)においては,「内部者取引」規制の整備がなされ,有価証券の発行会社の役員等が,その職務に関し内部情報を知った場合において,その公開前に当該有価証券の取引をしてはならないこととし,この違反に対して刑事罰を科することとした。
 平成2年の改正(一部を除き同年12月施行)においては,株券等の大量保有の状況に関する開示制度,いわゆる5パーセント・ルールを導入し,違反に対しては刑事罰を科することとした。
 平成3年には,証券会社による大口法人顧客等に対する損失補てんにより,一般の投資者の証券市場に対する信頼が大きく損なわれるなどしたことを踏まえ,証券会社による損失保証,損失補てん等を禁止するとともに,顧客がその要求により証券会社の損失保証,損失補てんを受ける行為等を禁止し,それらの違反に対しては,刑事罰を適用することとした改正(4年1月施行)がなされた。また,4年には,独立した監祝機構として新たに証券取引等監祝委員会を設置し,同委員会に対して調査・告発権限を付与すること,相場操縦的行為,損失補てん等,当該犯罪の社会的影響が重大であることなどの要件を満たす違反行為についての両罰規定中,法人の罰金刑の上限を,行為者に対する罰金刑の上限の額とは切り離して定め,大幅に引き上げることなどを主たる内容とする改正(一部を除き同年7月施行)がなされた。
 さらに,平成6年の改正(一部を除き同年10月施行)においては,商法の一部改正により自己株式取得規制が緩和されたことに伴って,自己株式取得に関する開示手続,公開買付け手続,内部者取引規制等につき,関連罰則を含む整備が行われた。
(2) 知的所有権関係
 終戦時における知的所有権を規律する法律としては,著作権法(明治32年法律第39号),特許法(大正10年法律第96号),商標法(大正10年法律第99号)等があったが,著作権法については昭和45年5月にその全部が改正(46年1月施行)され,特許法及び商標法については,いずれも34年4月に現行法が公布(35年4月施行)され,旧法は廃止された。
 著作権法(昭和45年法律第48号)は,著作物並びに実演,レコード,放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め,著作者等の権利の保護を図ることなどを目的としたものである。罰則としては,著作者人格権,著作権,出版権又は著作隣接権の侵害行為,商業用レコードの複製,同複製物頒布・頒布目的所持等に対するものを設けている。
 なお,平成9年の改正(10年1月施行)においては,インターネット等を活用した「インタラクティブ送信」の発達に対応する権利(「送信可能化権」)の創設等が行われた。
 特許法(昭和34年法律第121号)は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的としたもので,罰則としては,特許権又は専用実施権の侵害の罪等を設けている。
 商標法(昭和34年法律第127号)は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることなどを目的としたもので,罰則としては,商標権又は専用使用権の侵害の罪等を設けている。
(3) 租税関係
 終戦時における租税関係を規律する法律としては,所得税法(昭和15年法律第24号),法人税法(昭和15年法律第25号),相続税法(明治38年法律第10号)等があったが,戦後,これらの法律は全面改正され,当面していた財政経済の再建に資するなどのために,昭和22年3月には所得税法(昭和22年法律第27号)及び法人税法(昭和22年法律第28号)が,また,日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に即応するなどのために,同年4月には相続税法(昭和22年法律第87号)が,それぞれ公布(所得税法及び法人税法については同年4月施行,相続税法については同年5月施行)された。その後,25年3月には,いわゆるシャウプ勧告に基づき,所得税法及び法人税法の一部改正がなされるとともに,相続税法の全部改正がなされ,現行相続税法(昭和25年法律第73号)が公布(一部を除き同年4月施行)された。
 昭和40年3月には,所得税法及び法人税法の全部改正がなされ,現行の所得税法(昭和40年法律第33号)及び法人税法(昭和40年法律第34号)が公布(同年4月施行)され,その後の多数回にわたる改正を経て現在に至っている。
 現行の所得税法,法人税法及び相続税法の罰則規定としては,いわゆるほ脱行為,申告書等提出義務違反・虚偽記載行為,質問不答弁・虚偽答弁行為,検査拒否・妨害・忌避行為等に対するものが設けられている。
(4) その他の財政経済関係
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)は,昭和22年4月に公布(同年7月施行)され,平成8年末までの間に,51回の改正を経ているが,なかでも4年の改正(5年1月施行)においては,罰則が強化され,前記証券取引法の同年の改正と同様,事業者等による「私的独占」又は「不当な取引制限」等についての両罰規定中,法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額とは切り離して定められ,大幅に引き上げられた。
 なお,平成9年の改正においては,持株会社の全面的禁止を改めることや他の法律に定められていた同法適用除外カルテル等制度を大幅に廃止することなどがなされた。
 不正競争防止法(平成5年法律第47号)は,昭和9年3月に公布(10年1月施行)された(旧)不正競争防止法(昭和9年法律第14号)を全面改正したものとして平成5年5月に公布(6年5月施行)された。新法は,事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保することなどを目的としたもので,他人の商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用するなどの不正競争等に対する罰則を定め,両罰規定中,法人等に対する罰金刑の上限の額が行為者に対する罰金刑の上限の額とは切り離され,高額の罰金刑が定められている。
 貸金業における高金利事犯等に対する取締りは,昭和29年6月に公布(公布当日から同年10月にかけて施行)された出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和29年法律第195号)(以下「出資法」という。)によってなされてきたが,貸金業の業務の運営が,いわゆる「サラ金」問題を中心に社会問題となるに至って,58年5月,同法の改正とともに,新たに貸金業の規制等に関する法律(昭和58年法律第32号)が公布(いずれも同年11月施行)された。これらのいわゆる貸金業規制二法により,貸金業者についての登録制度が導入されるなど,貸金業者に対する規制が強化された。罰則としては,出資法においては高金利処罰規定,貸金業の規制等に関する法律においては不正の手段により貸金業の登録を受ける行為,無登録営業行為等に対する処罰規定等が設けられている。
 訪問販売,通信販売等に係る取引における購入者等の利益を保護することなどを目的とする訪問販売等に関する法律(昭和51年法律第57号)は,昭和51年6月に公布(一部を除き同年12月施行)され,不実告知,威迫等に対する罰則規定を設けている。また,いわゆる「ねずみ講」の開設・運営等を禁止するため,53年11月,無限連鎖講の防止に関する法律(昭和53年法律第101号)が公布(54年5月施行)された。