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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/6 

6 環境関係法令

 戦後,我が国においては,経済の成長,工業の発展に代表される産業構造の変化が進み,それに伴い,都市部への人口流入,自動車台数の増加などの結果,昭和30年代に入るといわゆる公害が全国的な問題となるに至った。
 昭和42年8月,国民の健康の保護と生活環境の保全を目的として,事業者,国及び地方公共団体の公害の防止に関する責務を明らかにするとともに,公害の防止に関する施策の基本となる事項を定めた公害対策基本法(昭和42年法律第132号)が公布(同年8月施行)された。その翌年には,大気汚染防止法(昭和43年法律第97号),騒音規制法(昭和43年法律第98号)等が公布・施行され,各種環境基準が設けられた。
 昭和45年12月,いわゆる公害国会と呼ばれた第64回国会において,前記公害対策基本法の改正を含む14の公害関係法の改正又は制定が行われた。そのうちの主な法律の内容は,次のとおりである。
 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(昭和45年法律第142号)は,公害の防止に関する他の法令に基づく規制とあいまって人の健康に係る公害の防止に資することを目的とし,昭和46年7月に施行された。同法は,それまでの公害関係行政法令の罰則が主として行政措置を実効あらしめるための規定であったのに対し,公害を発生させる行為を刑法犯的な犯罪として処罰するものであった。同法は,故意又は過失によって,工場又は事業場における事業活動に伴う人の健康に有害な物質の排出により,公衆の生命又は身体に危険を生じさせた者を処罰するとともに,よって人を死傷させた者についても処罰することとし,行為者のほか法人等の事業主をも処罰する両罰規定を設けている。また,厳格な条件の下に,排出物質と現に発生している危険な状態との関係につき,推定規定を設けた。
 大気汚染防止法は,それまでの,ばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和37年法律第146号)に替わるものとして,昭和43年6月に公布(同年12月施行)された。大気汚染防止法は,工場及び事業場からのばい煙の排出を規制し,自動車から排出されるガスの許容限度を定めるなどしたが,45年12月の一部改正(46年6月施行)では,カドミウムや弗化水素等の有害物質にまで排出規制の範囲を広げるなどするとともに,排出基準に適合しないばい煙の排出に関し,それまでの都道府県知事の改善命令に違反した者に対しての罰則の適用を改めて,排出した者に対して直ちに罰則が適用される,いわゆる直罰主義を採用した。
 水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)は,公共用水域の水質の保全に関する法律(昭和33年法律第181号)及び工場排水等の規制に関する法律(昭和33年法律第182号)の廃止に伴い公布(46年6月施行)された。水質汚濁防止法は,工場及び事業場から公共用水域に排出される水の排水規制を従前よりも強化し,排出基準違反行為に対する直罰規定を設けた。また,都道府県知事による,特定施設の届出事項の計画変更命令,汚水処理方法の改善命令違反等に係る罰則も定めている。
 海洋汚染防止法(昭和45年法律第136号)は,船舶及び海洋施設から海洋に油及び廃棄物を排出することを規制し,海洋の汚染の防除のための措置を講ずることにより,海洋の汚染を防止するとともに,海洋環境の保全に資することを目的として,それまで施行されていた,船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律(昭和42年法律第127号)を廃止し,同法を更に強化するものとして公布(46年6月施行)された。その後,海洋汚染防止法は,昭和51年6月の一部改正(一部を除き同年9月施行)で海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律と改称され,55年5月の一部改正(同年8月及び11月施行)では,廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(昭和55年条約第35号)の批准に伴い排出規制が見直され,また,58年5月の一部改正(一部を除き同年8月施行)では有害液体物質等の排出について,油と同様に規制を行うこととした。平成8年6月の一部改正(一部を除き同年7月施行)では,海洋法に関する国際連合条約(平成8年条約第6号)の締結に伴い,罰則規定が整備され,罰金刑の上限の額の引上げ及び一部を除く懲役刑・禁錮刑の廃止が行われ,また,同法に違反した外国船舶について,担保金等の提供を条件に速やかに釈放するいわゆるボンド制度が設けられた。同法は,海上保安庁長官が指定確認機関に行った業務停止命令に対する違反,油,有害液体物質等又は廃棄物の排出及び焼却違反等に対する罰則を設けている。
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)は,それまでの清掃法(昭和29年法律第72号)の全部を改正して公布(46年9月施行)された。廃棄物の処理及び清掃に関する法律は,産業廃棄物を含む廃棄物の適正な処理を目的とし,廃棄物処理の無許可営業,廃棄物の投棄禁止規定違反等に対する罰則を定めている。平成3年10月の一部改正(4年7月施行)では,罰則の強化等に加え,廃棄物の排出の抑制が初めてその目的に示され,廃棄物の適正な処理として分別,再生等が盛り込まれるようになった。9年6月の一部改正では,産業廃棄物の投棄禁止規定違反に対する罰則が強化され,法人に対する罰金刑の上限の額を,行為者に対する罰金刑の上限の額より高額とする規定が設けられた。
 自然公園法(昭和32年法律第161号)は,自然の風景地を保護するとともに,その利用の増進を図ることなどを目的として昭和32年6月に公布(同年10月施行)されたが,45年12月の一部改正(46年6月施行)において,保護と適正な利用のための国等の責務が認められ,清潔の保持,汚水又は廃水の排出に対する許可等,環境保全の見地からの諸規定が加えられた。さらに,48年9月の一部改正(同年10月施行)では,各種の開発行為の規制が強化された。同法には,原状回復命令等に対する違反,特別地域等における無許可行為,許可条件違反行為等に対する罰則が設けられている。
 なお,平成5年11月に,地球環境保全に積極的に取り組み,国民の健康で文化的な生活の確保に寄与することなどを目的として,環境基本法(平成5年法律第91号)が公布・施行された。同法によって,公害対策基本法は廃止されたが,公害の定義をはじめ,公害対策の基本的事項の多くは環境基本法に継承されている。